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同性の友人と会って話す機会を失ったメアリーは寂しそうだった。
バーバル小隊はこの期間、昼の教練でケガをする軍人たちを治療していたため、夜の方が忙しかった。
マイクロフト小隊は教練でも生傷が絶えないからひょっとしてリジーが治療に来てくれるのではないか、と私は少し期待していたが、やはりそんなに甘くはなかった。
我が軍にはリジーの治癒能力を必要とする傷病兵がたくさんいたようだ。
ドゥオークを発った我々は、ノーリンドンを発ったときと同様に、先陣を切って足早に行軍した。
自分たちが死地に向けて行軍していると思うと、見慣れぬ景色もあまり楽しいものではない。
歩いている最中は何も考えなくてよい代わりに、つまらない物思いにふけってしまう。
この移動中に憂鬱な思いを募らせた私は、その日の目的地に着いてからの体力維持(という名目の憂さ晴らし)に余念がなかった。
私に引っ張られたケビンだけでなく、アナンとヴォルフガングも、私が主導する教練の真似事に付き合ってくれた
(コリンは自由な時間があるたびに町の女を買いに行き、サマセットは酒を飲んで仲間たちと歌って踊っていた)。
私たちは、ひょっこり現れるメアリーと一緒に模擬戦をすることも少なくなかった。
彼女によると、私たち4人は小隊の中でも体力維持に熱心な方とのことだった。
そんな折、行軍のごたごたに紛れて、ランギス姉弟がちょくちょく顔を出すようになった。
ランギス姉弟は我々ジェンキンス隊とは違ってキリングス隊のフォッセン小隊に所属している傭兵の姉弟だ。
2人は伯爵家に生まれたが、幼い頃に相次いで両親を亡くし、分家の連中に財産を奪われた、いわゆる没落貴族とのことだった。
小隊だけでなく隊が違うせいで、今まで接点がなかった。
アニーは普段から笑みを浮かべていることがその顔の形にも表れていた。
また、頬と鼻にそばかすがあり、愛嬌が感じられた。
深い湖のように青い目に、襟足で結んだ長い小麦色の髪、贅肉がなく引き締まった体つきで、女性としては大柄なメアリーや小柄なリジーに比べると当時の標準に近かった。
弟のヴィンセントも姉に負けない明るい金髪と、澄んだ青い目をしていた。
体はやや細身で色白だった。
何となく女性的というかエレガントなところがあったが、全体的によく鍛えられているという感じがした。
アニーとヴィンセントの姉弟関係はつかず離れずというところで、あまりベタベタしているようには見えなかった。
メアリーのところに姉弟2人で訪れたのは、アニーだけでなくヴィンセントの方も、「血まみれの魔女」とマイクロフト小隊の隊士に興味を持ったからだったようだ。
「え? そんなことでしたら、もっと早く知り合いになりたかったわ!」
初めてアニーに会ったとき、メアリーは新しい同性の友人ができて嬉しそうだった。
メアリーは男性一般に対して不信感を抱いているらしいところがあったので、さもありなんと私は思った。
その不信感がケビンや私に向けられることも皆無ではなかった。
嬉しそうなメアリーに対して、アニーの方は(初対面ということもあって)まだ様子をうかがっている段階に見えなくもなかった。
「いやさ、『血まみれの魔女』って聞くとちょっと気が引けてさ。薄笑いの噂もあったし……」
そう言われて、メアリーは笑って恥ずかしさを誤魔化した。
実際のところ、戦闘中の薄笑いに関しては私たちも本気で引いていたところだ。
私がそのことをアニーに言うと、メアリーは、
「ちょっと! やめてくださいな、恥ずかしいですわ」
と言いながら顔を赤らめた。
いつもよりテンション高いな、と私は思った。
アニーと友人になれてよほど嬉しかったのだろう。
アニーの態度は初めこそ警戒心で緊張気味だったが、その後は気さくになった。
私たちはアニーともヴィンセントとも模擬戦で腕試しをしたが、剣に関して姉弟は2人ともまずまずの腕前だった(少なくとも私にはそう思えた)。
アニーはメアリーだけでなく私たちのことも気に入ってくれたようで、弟がいないときでも私たちを訪ねては、おしゃべりをしたり模擬戦をしたりした。




