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「さっき小隊長も言っていたが、2日後、ランドンに進軍することになった。この話はあまり広めてほしくないが、次の相手は『バルディベルグの悪魔』だぞ」
ナヌラークは首をかしげたが、ニコラス、リジー、メアリーは揃って苦い顔をした。
私はスタンリーの解説を聴いたときからの疑問をぶつけることにした。
「ひとりで1個小隊を壊滅させたなんて、そんなの単なる噂だろ。たったひとりの人間にそんな芸当できる訳ねえじゃねぇか」
「いや、たぶん本当だろ」
字面以上に断定的に、ニコラスが言った。
私はあまり気が進まなかったが、この男に疑問をぶつけることにした。
「なんで本当だって言い切れる?」
私があいさつ以外で自分からニコラスに話しかけたのはこれが初めてだった。
「俺にもできるからだ」
一瞬冗談かと思ったし、ナヌラークもそう思ったらしく吹き出した。
だが、リジーが真顔なのを見て、これはマジなんだろうと思い直した。
「つまり、『バルディベルグの悪魔』は半神ってことか?」
「そうだ」
「半神って何だ?」
ナヌラークが間髪入れずに尋ねたが、私は他に訊きたいことがあったので、手短に「ニコラスみたいなヤツのこと」とだけ答えた。
「ということは、傷もすぐ治るんだろ? そんな奴をどうやって倒すんだ?」
「はぁ?」
ナヌラークがまた口を挟んだ。
ニコラスが咎めるように私を見た。
「ニコラスにはリジーがついてるからってことか?」
ナヌラークが重ねて尋ねた。
「あら、『バルディベルグの悪魔』にも、リジーのような協力者がいますの?」
メアリーまで尋ねてきた。
リジーが答えた。
「いや、そういうことじゃなくてね、あたしが触らなくても、ニコラスは傷がすぐ治る体質なんだよ」
ニコラスはそれで諦めたらしく、いつかマイクロフトや私の前でやったように実演をしてみせた。
腕につけた傷が瞬時に治る様子を見て、メアリーとナヌラークが息を呑んだ。
スタンリーは感嘆の声を漏らしたが、そうかと言ってあまり驚いているようには見えなかった。
きっと事前にマイクロフトから話を聞いていたのだろう。
「ハーディングさんは不死身でいらっしゃるの?」
メアリーの質問に、ニコラスは首を横に振った。
「普通に歳はとる。それに、たぶん首を飛ばされても死ぬはずだ」
「でも、それ以外なら……?」
「たぶんな」
「じゃあ、次の戦いに出てくる半神の敵も、首を飛ばせば勝てますのね?」
メアリーがようやく私の訊きたいことを訊いてくれた。
「ああ……たぶんな」
ニコラスの返事は素っ気なかった。
その理由は分からないでもなかった。
モルリークの首を飛ばすことは、ニコラスの首を飛ばすことと同じくらいには難しいはずだ。
そんなことはまず不可能に思えた。
私たちの不安を見てとったらしく、リジーが気楽な調子でニコラスに尋ねた。
「首を飛ばさなくても、深い傷を負わせれば治癒能力が追いつかないこともあるんだよね?」
「ああ、師匠はそう言ってたな」
「なら大丈夫。きっと勝てるよ。あたしたちがついてるんだから」
真剣にそう言ったリジーには悪いが、なんて楽観的なセリフなんだろうと私は思った。
だが、たしかに、ニコラスと同じくリジーも半神とのことだし、こっちにはメアリーもナヌラークもいる。
いくら半神が相手でも、敵がひとりであるなら、状況はそこまで悪くない、と考えて、私も納得することにした。
しかし、翌日、リジーに転属命令が伝えられて、私たちを束の間元気づけてくれた彼女は、ジェンキンス隊の医療班であるバーバル小隊に移された。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
第3章はここで終わりです。
昨晩、初めて活動報告を投稿してみましたので、良ければそちらもご覧ください。




