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模擬戦がひと通り終わった後、私はとある男に声を掛けられた。
このとき、私はまだ彼と話したことがなく、名前も知らなかったが、彼はよくマイクロフトの傍にいたので、顔に見覚えくらいはあった。
歳は見たところニコラスや私と同じ10代後半から20代初めくらいだが、私たちと比べると体の線が細かった。
クセのある金髪は長めで銀髪混じり、淡いブルーの目はどこか眠そうで、シミもニキビもない滑らかな肌をしていた。
「こうやって話すのは初めてだな。俺はスタンリー・エバンズ。スタンリーでいい。君と同じマイクロフト小隊所属で、伝令と通訳を務めてる」
伝令は自分では戦わないこともあって下っ端として見られることがあるが、信頼された人間だけが任される重要な仕事だった。
また、通訳と言えば、複数の外国語で流暢に会話できることが期待される、インテリの仕事だった。
もちろん、交易都市であれば特定の外国語を聞いて理解できる人間がちょくちょくいるものだが、複数の外国語を自在に話せる人間はあまりいなかった。
どちらも、当時の私にとって馴染みのない職業だったのは確かだ。
「……ジャコブだ。ジャコブ・ハーベイ」
「心配するな、そんなに警戒するような話じゃない」
スタンリーは馴れ馴れしく私の肩を叩きながら尋ねた。
「ジャコブ、ビールは好きか?」
「おう」
「飲みに行こう」
「は?」
「迎えに行く。俺は野暮用があるから、話は今夜だ」
スタンリーはそう言って、マイクロフトと連れ立って去っていった。
私は事情をよく呑み込めなかったが、気を取り直して自分の教練に向かった。
今夜は隙を見て、リジーを訪ねようと思っていたのに。
いや、もちろん変な意味じゃなく。




