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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第2章 ホリウス
30/146

2-4

 馬に(またが)ったマイクロフトが小隊の前に進み出た。

 敵軍が近づいてくる音がしていた。

「諸君、戦いのときが来た! 君たちが負け犬でないことを、今こそ主と人々に対して知らしめるときが来たのだ! 今こそ、その時だ!」

 文の区切れごとに周りの隊士たちと一緒に大声を出していると、どうにでもなれという気になって、力が湧いてくるのを感じた。

 最後にマイクロフトが言った。

「主も人々も、今この時の君たちを見ている! 恥ずかしくない戦を、主と人間の歴史に捧げよう!」

 ニコラスがいつものようにゴリッと首を鳴らすのを、私は目の端で捉えた。

「盾、構え!」

 マイクロフトの号令がかかり、2列目にいた私は盾を頭上に掲げた。

 敵からの矢の雨を警戒するためだ。

 最前列の者は正面に盾を構えたので、ほとんど足元しか見えなくなった。


 両軍から矢が飛び始めた。

 槍はせいぜい50メートルほどしか飛ばないが、矢は数百メートル先から飛んでくる。

 私の盾にも2、3本の矢が刺さった。

 大声と足音で地を揺らしながら、敵の軍勢が近づいてきた。

「前進!」

 騎兵隊を先頭に、私たち王国軍は斜面を駆け下り、敵軍と互いに距離を縮めた。

 王国軍が雄叫びを上げると、余計な音はすぐにかき消された。


 雨のように降る矢と槍を(しの)いだ私たちは頭上に(かか)げていた盾を下ろし、走るペースを上げて、敵軍に向けて槍を構えた。

 敵の騎兵隊と歩兵が、我が軍に負けじと怒号を上げながら押し寄せてきた。

 普段からナヌラークの怒鳴り声を聞かされていなかったら、思わず(ひる)んでいたところかもしれない。

 私は古参隊士の肩越しに敵の歩兵を突いた。

 悲鳴と血の匂いが私の耳と鼻に襲いかかった。


 軍隊の戦を見たことがなかった私はてっきり、統率の取れた軍隊の正面衝突は最前線同士が互いを切り崩して、前がやられれば2列目、3列目、さらにその後ろへと順に代わっていくものだと思い込んでいた。

 だが、当然ながらそんな品の良いものではなかった。

 10分と経たない内に、陣形や配置はどこへやら、敵と味方が入り乱れた。

 それぞれの顔を見ている余裕はないので、見慣れない甲冑であれば斬りかかり、見慣れた甲冑であれば助けに向かうという具合になっていた。


 ニコラス、ナヌラーク、バートンを筆頭に古参の隊士たちが飛び出して、敵兵を()ぎ払った。

 ニコラスが剣を振るうと、面白いように敵軍が砕けた。

 この男の背中がこんなに頼もしく思えたのは初めてだった。

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