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ダームガルス戦記  作者: あじさい
プロローグ
3/146

0-3

 私たちが姉の行方を突き止めた頃には、彼女は奴隷として東の隣国アマルディア帝国の富豪に買われ、辱められていた。

 当然ながら私は憤激した。これほど我を忘れてキレたことは、今から振り返ってもこのときが最初で最後だが、それでも私は入念に計画を立ててから復讐を決行した。

 ハリントンの頃に恩を売っておいた仲間数名とダゴスで引き入れた弟分を引き連れて、夜が更けた頃に買い手一家に乗り込み、「盗賊の真似事」(と後に言われたこと)を不本意ながらして、姉を取り戻した。

 このことで私たちは役人どもから罪に問われたが、情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)の余地ありということで、アマルディア帝国からの追放で済んだ。

 こんな国を二度と訪れるつもりもない私としては痛くも(かゆ)くもなかった。

 しかし、私が殺人を犯したことを親族は良く思わず(「金で買い戻せば穏便に済んだのに」というのが、盗賊団と闘う前から姉を見捨てていた彼らの言い分だった)、連れ戻した姉も傷心の末に寝込んでしまったので、私は再び家族と疎遠になった。

 私は自分が罪人として後ろ指をさされること以上に、姉が親族や町の人々から「けがれた者」として扱われることが我慢ならなかった。


 この一件から間もなく、我がウベルギラス王国と西の隣国ダームガルス帝国と間で戦争が始まったという報がダゴスの町に届いた。

 それを耳にしてすぐに、私は王国軍に志願することを決めた。当時の私にとって入隊は立身出世の好機に思えた。

 この戦争で名を上げれば騎士になれるかもしれない。そうなれば、私は単なる農家の三男坊でもハリントンの用心棒でもなくなる。

 私を見るたびに後ろ指を指す連中を見返すことができるし、私が姉を親族や世間の白い目から救うことだってできるようになるはずだ。

 そう私は思った。


 今も昔も戦争は王侯貴族の分捕り合戦であって、民衆にとっては迷惑でしかないが、勝者には大いなる富と名誉をもたらすことも事実である。

 その昔、戦争に参加することは金がかかる一方で名誉なことでもあり、職業軍人は国の支配者と強く結びついて多くの特権を認められた。

 この特権階級が貴族であり、貴族本来の仕事とは古より戦争なのである。

 だが、農業と商業の発展に伴って世界が豊かになると、民衆もまた武器を調達することができるようになった。

 そのため、王侯貴族は民衆の富を戦争に利用することを考えるようになり、民衆は貴族から徴兵されたり、生活あるいは立身出世のために自ら入隊を決めたりするようになった。


 私に同情的だった母は、私の出征を悲しみつつも、父を説得してくれた。

 また、ドーリス団との一件で私を気に入ってくれたハリントン子爵は、私を王国軍に推薦してくれた。

 私が名誉のためには戦の最前線をも恐れないと子爵の前で強調したことが奏功し(正確に言えば、私は名誉が欲しかった訳ではなく、単に私の生き方を周りの人々に認めさせたかっただけなのだが、そんな微妙な問題を子爵に話す気は起らなかった)、私の配属はジェンキンス隊のマイクロフト小隊に決まった。

 ダゴスから入隊を志願した者は私の他にも何人かいたが、ジェンキンス隊に配属されたのは私だけだった。


 ジェンキンス隊は、結成当初から身分に依らず見どころのある傭兵を集めることに注力した前衛部隊だった。

 戦闘の最前線で戦う前衛部隊は、最も名誉あると同時に最も危険にさらされる部隊である。

 後には平和ボケした貴族たちの憧れになったが、当時は分別のある者が所属したがるようなものではなかった。

 私が前衛部隊に所属することになったのは、はっきり言って、無知な私が自棄になっていたせいだった。


 長い冬がようやく終わろうかという頃、19歳だった私は、ウベルギラス西部防衛軍のジェンキンス隊マイクロフト小隊に合流すべく、東方の町ノーリンドンを目指した。

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