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ジェンキンス隊はホリウスに舞い戻り、朝方に畳んだばかりの宿営地を再び設置した(ホリウスは城のない小さな町だった)。
本隊は夕方には到着するとのことだった。
昼下がり、気が高ぶって落ち着かない私がケビンを相手に模擬戦に励んでいると、いつの間にかメアリーがその様子を見物しに来ていた。
それに気づいて思わず動きを止めると、間髪入れずにケビンの一撃が腿に入って、私は無様な声を上げてしまった。
「ごめんなさい。邪魔をするつもりはありませんでしたの」
メアリーは謝罪にふさわしい声を出そうと努めていたが、私には笑いをこらえているように見えた。
このときの彼女は甲冑こそ身に着けていなかったが、あの一件の反省からか、男物の服を着て、腰には真剣と思しき長剣を差していた。
「ジャコブ・ハーベイでしたね、ちゃんと会うのはあの一件以来ですね」
「あの一件?」
ケビンが尋ねると、メアリーは首を振って、「大したことではありませんわ」と答えた。
「なにかご用ですか?」
「いえ、特に用という訳ではありません。明日はわたくしにとりましても初陣ですので、落ち着きませんで、ちょっと散歩しておりましたの」
その戦いぶりから、私はメアリーを特殊な事情の傭兵だと思い込んでいたので、明日が初陣というのを意外に思った。
私がそれを伝えると、彼女は苦笑いして、
「12歳の頃、男子だと偽って剣術の試合に出場したくらいですわ」
と、恥ずかしさ半分、誇らしさ半分といった様子で答えた。
剣術の鍛錬は幼い頃から始めて今に至るまで人目を忍んで続けたが、体つきを甲冑でごまかして少年だと言い張るのは12歳が限界だったらしい。
女なのにどうして剣術を学んだのかと私が尋ねると、メアリーは眉間にしわを寄せたが(後に私も思い知ったが、彼女は「女なのに」と言われることに常々腹を立てていた)、すぐに笑顔に戻って答えてくれた。
「自分の身を守れるようになりたいと乳母に申しましたら、上手く取り計らってくれて、男子に混じって剣の教授を受けさせていただきました」
「男子に混じって?」
「ええ、男子の友達と一緒でした」
妙な間ができた。
メアリーはあまりこの話題に立ち入ってほしくなさそうだった。
私は話題を変えることにした。
「俺たちじゃ力不足でしょうが、軽い運動はいかがですか?」
「そのお誘いを待っておりました。お二人まとめてお相手をいたしますわ」
このときもその後も、メアリーは淑女の一般的なマナーに反して、めったなことでは謙遜をしなかった。
私たちはケビンに木剣と棒をもう1組持ってこさせた。
その間にもメアリーと私は数回試合をした。
もちろん、痣ができないように寸止めを心掛けることを確認してから始めた。
メアリーは2人まとめてと言ったが、さすがにそれでは彼女があまりにも不利だし、こちらにもプライドがあるので、ケビンと私が交代で彼女の相手をし、時には彼女にも休憩を取ってもらった。
試合は勝ったり負けたりだった。
実際に試合をして分かったが、彼女は戦っている内に気が高まってくるタイプで、白熱してくると不気味な笑顔で白い歯を見せた。
メアリーがなかなかやめようとせず、私たちもそう簡単にバテない体になっていたので、試合は日が沈むまで繰り返された。
最後の試合で私に勝った後、メアリーは顔中から汗を垂らしながら大笑いした。
彼女は別れ際、
「やっぱり、男の方を打ち負かすのはこの上ない喜びですわ」
と、不穏なことを言った。




