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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第1章 ノーリンドン
26/146

1-23

 ニコラスは日頃から古参と模擬戦をしていたが、力が強すぎる上に剣さばきが速すぎて、誰が相手をしてもほとんどまともな試合にならなかった。

 腹立たしいことに、この男は1日に数人とだけ試合をしたら飽きるらしく、教練をサボって他の隊士たちを冷やかしたり木陰で寝息を立てたりすることが多かった。

 最強ではあったが、器の小さい男だったのである。

 それでもニコラスが教練に参加した背景には、隊士たちの目と反応速度を鍛えたいというマイクロフトの意図があったようだが、ニコラス相手だとやる気と自信を失う者が少なからずいた。


 ナヌラークはやる気を失わずにニコラスに挑み続ける人間の1人だった。

 私たち新参は「ホリウスの戦い」の前だと1度だけ、2人の模擬戦をじっくり見せてもらった。

 2人とも鎧を着ていたが、ナヌラークがヘルメットをかぶり、槍と同じ長さの木の棒を右手に持ち、木剣を腰に差し、実戦と同じ盾を左手に持っていたのに対し、ニコラスはヘルメットもかぶらずに右手に木剣を持っているだけだった。

 顔合わせのときと同じく、完全に相手をなめている様子だが、何度も負けの経験があるようで、あのナヌラークが文句の一つも言わなかった

(後に知ったが、ニコラスは、白兵戦には大きすぎると言って盾を好まず、大勢の敵と戦うには目と耳が大事だと言ってヘルメットをかぶりたがらなかった)。

 試合前にナヌラークが声を張った。

「おい、ニコラス! 俺は今度こそお前に勝つ!」


 傍から見ていた私は、用心棒に負けてばかりいるチンピラが言いそうな台詞だと思った。

 ニコラスは例によって退屈そうな顔で、首をゴリッと鳴らした。

 当時の私から見ると、2人とも英雄というより犯罪人と言われた方がしっくりきた。


 試合が始まり、ナヌラークが大声を上げながら槍(を模した棒)を振り上げて走り寄った。

 驚いたことに、ニコラスは左足を引いて腰を落とし、木剣を中段に構えた。

 私がニコラスの構えを見たのはこれが初めてだった。

 ニコラスは無言のまま木剣を操って、ナヌラークの攻撃を受け流した。

 バートンにしてもマイクロフトにしても、ナヌラークからの攻撃を盾で受けることがほとんどなので、私はニコラスの剣の速さと正確さに改めて驚いた。

 ニコラスが涼しい顔を崩さないのがナヌラークには許せない様子だが、文句を言う訳にもいかない。


 しばらくそんな調子で試合を続けた後、息が上がったナヌラークが距離をとった。

 さすがに足を動かしても俊敏だ。

 だが、その後の展開は早かった。

 距離を詰めたニコラスがナヌラークの槍(を模した棒)を(はじ)いて下げさせ、間髪入れずに盾を飛び蹴りで落として、そのまま木剣で頭をヘルメットごと横殴りにした。

 不安定な態勢だったが、ボンッという(にぶ)い大きな音がした。


 難なく着地したニコラスは、息をついて体の力を抜いた。

 ナヌラークは倒れ込まないまでもかなり痛そうで、頭を抱えながら大声で悪態をついた。

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