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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第1章 ノーリンドン
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1-21

 ニコラスにしごかれながら走り始めてちょうど1ヶ月の6月2日の夜、彼は私たちを整列させて言った。

「明日、ナヌラークが来る」

 私には「ナヌラーク」が何を意味する言葉なのか分からなかった。

「ナヌラークって何すか」

 ひとりのお調子者が尋ねたが(彼も私と同じく平民出身で言葉遣いが荒かった)、ニコラスは答えずに解散を告げた。

 たぶん、面倒くさかったのだろう。


 翌朝、私たちが集合場所に整列してみると、それまでニコラスがいた場所に、白混じりの黒ひげをたくわえた大男が上半身裸で立っていた。

 胸毛がふさふさだ。

 その胸毛で、小隊の顔合わせの日に見かけた男だと思い出した。

 こいつがナヌラークなのだろう。

 ニコラスもせめて一言、「胸毛」と言ってくれれば良かったのに。

 ナヌラークは今日から自分がニコラスに代わって新参の教練を行う旨を述べ、走る時間を減らして剣術の教練を始めると言った。


 ナヌラークが教官になってから走り込みの距離が大幅に減った。

 率直なところ、教練は私にとってかなり楽なものになった。

 たしかにナヌラークの怒鳴り声は恐ろしかったが(後に知ったが、軍事教練で教官が怒鳴るのは大きな音や怒声に対する免疫をつけるという目的があるらしい)、いつ誰の骨を砕くか分からないニコラスに一日中追い回されることに比べればまだマシだった。

 ナヌラークには、教練中に新参たちを励ましたり、夜に労ったりするくらいの人情味があった。


 走り込みの後に待ち受ける剣術教練では剣だけでなく槍も振るったが、素振りと槍投げだけで、ちっとも実戦的ではなかった。

 素振りの間、私は頭の中で「死にしてえのか」というニコラスの言葉を反芻していた。


 同じ頃、マイクロフトによる教授が始まった。

 軍隊ラッパや指令に合わせて行進や構えといった動作をしていればよかったので、私はこの時間がいちばん好きだった。

 だが、仲間と二手に分かれて、それぞれに槍を構えて互いのもとに突っ込んでいく訓練では、いつも冷や汗を流した。

 もちろん、実際に味方を殺さないよう、当たる直前に切っ先を上に向け、体を横向きにして衝突を回避するのだが、合図があるまで槍を上げずに全力で走らねばならなかった。


 さらに半月後には2人1組になって木剣をぶつけ合う訓練が始まった。

 言いつけを破って真剣で模擬戦をしようとする者もいたが、ナヌラークが怒鳴りつけてやめさせた。

 模擬戦をやってみてようやく、私は走り込みの意味を理解した。

 それ以前、私はてっきり剣術とは肩回りを鍛えて上達させるものと思っていたが、次から次に相手を変えて模擬戦をしている内に、肩回り以上に足腰と肺活量が重要だということが分かった。

 そして、素振りを繰り返したおかげで斬りつける際に刃に力を乗せやすくなっていた。

 ただ、相手の動きを見るための目を鍛えてこなかったのには弱った。

 相手の攻撃を受け流す術が私にはよく分からなかったし、新参同士の訓練ではごく初歩的なことしか見えてこなかった。

 顔合わせの日に見せたようにメアリーは剣技に秀でていたが、私が対戦する前に、彼女だけ新参同士の試合を卒業して、古参との模擬戦に入ってしまった。


 槍の方が自分に合っていると気づいたのは、この頃だった。

 ナヌラークは私の剣術と槍術に雲泥の差があることを面白がって、頻繁に槍の相手をしてくれた。

 新参の内は武術云々よりも基礎体力をつけさせるのがニコラスの方針で、得意なものを伸ばして勝負度胸を養うのがナヌラークの方針だったようだ。


 若かった私たちは同じ新参隊士の連中と腕を競い合って、模擬戦の勝敗に一喜一憂していた。 「ホリウスの戦い」前の私は剣だとあまり自信を持てない状態だったが、槍に関しては人一倍の才能があったようである。

 槍さえ持っていれば同じ新参隊士たちに負けることはなかった。

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