表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダームガルス戦記  作者: あじさい
第1章 ノーリンドン
19/146

1-16

 駆けつけた憲兵に強姦魔の4人を引き渡し、メアリーを新しい寝室まで送り(道中、メアリーはリジーと彼女の治癒魔法について話していた)、先ほどの応接室に戻ってから、マイクロフトは席にもつかずにリジーに尋ねた。

「さっきの話の続きをしたいんだが、構わないかな?」

「ああ、魔法の話?」

 リジーは困り顔で肩を落とした。

 さっきの一件で疲れてしまったのかもしれないし、魔法についてべらべらと話してしまったことを後悔し始めたのかもしれない。

 おそらく、その両方だったのだろう。

「いや、魔法のことじゃない。でも、3つの質問の内の、最後の質問だ。君は旅人だと言っていたが、僕は必要なときには君の力を借りたいと思っている。その上で訊くが、君は今後どこへ行くつもりなんだ?」

 リジーはその質問を意外に思ったようだったが、やわらかく笑った。

「あんたが必要と思ってくれるなら、そのときに、あたしの方から訪ねるよ。今日あたしがあんたの友達になれたなら、きっと声が届くから」

「それは、さっき言っていた心を読む魔法じゃないのかな?」

「違うよ。ただなんとなく、友達の声なら届く気がするんだよ」




 その後、リジーが宿に戻ると言うので、私は彼女を宿まで送ることにした。

 ニコラスが、リジーは素面の私より強いから送る必要はないと言ったが、私は自分の姉のことと今回の件を思うと気が気でなかった。

 道中、私は何の話をしたものか分からないことに気づいた。

 私にはリジーの素性がよく掴めていなかったが、そこに踏み込もうとは思わなかった。

 昼に会ったときに彼女は旅の目的を「勉強」としか言わなかったし、マイクロフトが行き先を尋ねても答えなかった。

 彼女が自分のことを話したくないのは明らかだ。

 それに、彼女の修行や魔法について私にも理解できそうな話は、既にマイクロフトが訊いていたような気がした。

 ニコラスとの関係など聞きたくない。

 そんなことを考えている内に私は、自分の身の上話をリジーに聞いてほしいという、およそ会って1日と経っていない人間に対して抱くには妙な思いに駆られた。

 だが、最後の別れになるかもしれないときに重苦しい空気を作ってしまうと思うと、なかなか踏み出せなかった。


 ノーリンドンは夜も明るく賑やかだった。

 兵舎の周りは特に商売が繁盛(はんじょう)するようで、酒屋と娼館が軒を連ねていた。

 もちろん、神の教えでは娼館は避けるべきものとされているが、いつの時代も、男がそれを求める気持ちを神の教えで踏み潰すことはできない。

 私たちは(あや)しい目をした酒臭い男女を掻き分けながら歩いたが、誰からも声をかけられなかった。


「マイクロフトに、友達になれたなら声が届く気がするって言ったのは、占いの類かい?」

 私は(やぶ)から棒にそんな話をした。リジーが驚いたことはその反応で嫌と言うほど分かったが、彼女は別に私を(とが)めはしなかった。

「ううん、あたしにはそこまではっきりしたイメージが降ってきたことはないんだ。ちょっとそんな気がする程度だよ。いわゆる『女の勘』ってヤツだね」

 そう言ってリジーは、まるで第六感を誇示するかのようにこめかみをトントンと触った。

 半神の彼女が言うのだから信用しても良いだろう、と私は思った。

「でもね、あんたたちの危機に駆けつけるつもりなのは本当だよ」

「危機ということで言えば、俺は今度、なんと戦争に参加するんだ!」

「……そうだね、でも、ジャコブは大丈夫だと思うよ」

「『女の勘』かい?」

「それもあるけど、ジャコブってめったなことじゃ死なない気がするんだよね。何でだろう?」

「さすがだな。実は俺、こう見えて盗賊を討伐したことがあるんだぜ」

「え、そうなの?」

 結局、私は自分の身の上話をしてしまった。

 私はリジーに笑ってほしくて、なるべく面白おかしく話そうと試みたが、彼女は少しも笑わなかった。


 宿の前まで来た。

 彼女は私が宿まで送ったことに礼を言ってくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ