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駆けつけた憲兵に強姦魔の4人を引き渡し、メアリーを新しい寝室まで送り(道中、メアリーはリジーと彼女の治癒魔法について話していた)、先ほどの応接室に戻ってから、マイクロフトは席にもつかずにリジーに尋ねた。
「さっきの話の続きをしたいんだが、構わないかな?」
「ああ、魔法の話?」
リジーは困り顔で肩を落とした。
さっきの一件で疲れてしまったのかもしれないし、魔法についてべらべらと話してしまったことを後悔し始めたのかもしれない。
おそらく、その両方だったのだろう。
「いや、魔法のことじゃない。でも、3つの質問の内の、最後の質問だ。君は旅人だと言っていたが、僕は必要なときには君の力を借りたいと思っている。その上で訊くが、君は今後どこへ行くつもりなんだ?」
リジーはその質問を意外に思ったようだったが、やわらかく笑った。
「あんたが必要と思ってくれるなら、そのときに、あたしの方から訪ねるよ。今日あたしがあんたの友達になれたなら、きっと声が届くから」
「それは、さっき言っていた心を読む魔法じゃないのかな?」
「違うよ。ただなんとなく、友達の声なら届く気がするんだよ」
その後、リジーが宿に戻ると言うので、私は彼女を宿まで送ることにした。
ニコラスが、リジーは素面の私より強いから送る必要はないと言ったが、私は自分の姉のことと今回の件を思うと気が気でなかった。
道中、私は何の話をしたものか分からないことに気づいた。
私にはリジーの素性がよく掴めていなかったが、そこに踏み込もうとは思わなかった。
昼に会ったときに彼女は旅の目的を「勉強」としか言わなかったし、マイクロフトが行き先を尋ねても答えなかった。
彼女が自分のことを話したくないのは明らかだ。
それに、彼女の修行や魔法について私にも理解できそうな話は、既にマイクロフトが訊いていたような気がした。
ニコラスとの関係など聞きたくない。
そんなことを考えている内に私は、自分の身の上話をリジーに聞いてほしいという、およそ会って1日と経っていない人間に対して抱くには妙な思いに駆られた。
だが、最後の別れになるかもしれないときに重苦しい空気を作ってしまうと思うと、なかなか踏み出せなかった。
ノーリンドンは夜も明るく賑やかだった。
兵舎の周りは特に商売が繁盛するようで、酒屋と娼館が軒を連ねていた。
もちろん、神の教えでは娼館は避けるべきものとされているが、いつの時代も、男がそれを求める気持ちを神の教えで踏み潰すことはできない。
私たちは妖しい目をした酒臭い男女を掻き分けながら歩いたが、誰からも声をかけられなかった。
「マイクロフトに、友達になれたなら声が届く気がするって言ったのは、占いの類かい?」
私は藪から棒にそんな話をした。リジーが驚いたことはその反応で嫌と言うほど分かったが、彼女は別に私を咎めはしなかった。
「ううん、あたしにはそこまではっきりしたイメージが降ってきたことはないんだ。ちょっとそんな気がする程度だよ。いわゆる『女の勘』ってヤツだね」
そう言ってリジーは、まるで第六感を誇示するかのようにこめかみをトントンと触った。
半神の彼女が言うのだから信用しても良いだろう、と私は思った。
「でもね、あんたたちの危機に駆けつけるつもりなのは本当だよ」
「危機ということで言えば、俺は今度、なんと戦争に参加するんだ!」
「……そうだね、でも、ジャコブは大丈夫だと思うよ」
「『女の勘』かい?」
「それもあるけど、ジャコブってめったなことじゃ死なない気がするんだよね。何でだろう?」
「さすがだな。実は俺、こう見えて盗賊を討伐したことがあるんだぜ」
「え、そうなの?」
結局、私は自分の身の上話をしてしまった。
私はリジーに笑ってほしくて、なるべく面白おかしく話そうと試みたが、彼女は少しも笑わなかった。
宿の前まで来た。
彼女は私が宿まで送ったことに礼を言ってくれた。