表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダームガルス戦記  作者: あじさい
第1章 ノーリンドン
18/146

1-15

「しかし、わたくしには看過できないことがまだ残っております」

 メアリーはマイクロフトをキッと睨んで言った。

「小隊長、これは一体どういうことですの?」

「いやいや、あなたにも非があるでしょう」

 メアリーが怒りで顔を歪ませたが、マイクロフトは落ち着いたものだった。

「どうして軽々しく扉を開けたんですか? ここには血気盛んな男ばかりだということは分かっていたでしょうに」

「わたくしは開けておりません! 扉越しに話をしていたら、いきなり扉を蹴破(けやぶ)ってきたんです!」

 見れば、確かに部屋の扉が壊されていた。

「これは失敬しました」

 マイクロフトの謝り方はごくさらりとしていた。

「ウベルギラス軍は統率が取れた軍隊だと聞いておりましたが、味方を辱めるとは何事ですの?」

「味方というより先に女だったということでしょう、彼らにしてみれば。もしかしてその恰好で出歩いたりなんてしてませんか?」

 マイクロフトの返事に、メアリーはかなりお冠だった。

 このときの彼女は庶民の女性のように質素な長袖のカートルを着ていたが、たしかにこの男くさい兵舎では悪目立ちするに違いなかった。

「まるでわたくしが悪いとでも言いたげですわね」

「別にあなただけが悪いとは言ってませんよ」

 残念ながら、マイクロフトにはこういうところがあった。

 自覚的に女を差別した訳ではなかったのだろうが、何かトラブルが起こるとすぐに女よりも男の肩を持とうとするのだ。

 とはいえ当時は、「女が男に襲われるのは女が男の劣情を刺激したから、つまり女が誘ったからだ」と考えられることが割と普通にあったから、マイクロフトのように、襲われた女を逆にたしなめる男は少なくなかった。

 ちょっと考えれば、むやみやたらに男を誘って襲われることさえ(いと)わない女など存在するはずがないことくらい自明なのだが、当時の男たちは女のこととなるとその程度の思慮さえできなかった。

「ジョン、それはひどいよ。メアリーは何も悪くないのに」

 リジーが口を挟んだ。

「それに、あんたを××呼ばわりした奴らを(かば)うなんておかしいよ」

「うむ、まあ、そうだな」

 マイクロフトは曖昧に答えた。

 一方でメアリーも、リジーが××と口に出したことに度肝を抜かれて、マイクロフトに対する怒りを忘れたようだった。

「アドラー嬢、失礼しました。あなたには別の寝室と衛兵を用意します」

 メアリーはようやく長剣の血を払って(さや)に収めたが、マイクロフトに「その衛兵は信用できるんでしょうね?」と言った。

 こんなことがあった後なのだから、そういう疑問を抱くのも当然だった。

「ご心配なく。衛兵には私の方から、あなたを全力で守るように指示します。命令違反は死刑というのが我が軍の鉄則ですから、衛兵が何かするようなら私が処分します。何なら、もしものときはあなたの手で始末してもらっても構いませんよ」

「いえ、何があっても少なくともその場で殺すのはやめておきますわ」

 リジーが再び口を挟む前に、メアリーが言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ