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「あたしにも、この人たちがちゃんと反省して改心するかは分からない」
リジーが話を続けた。
「でも、死んじゃったらこの人たちが改心することはできなくなる。自分の罪を悔い改めないで死ぬことはとても不幸で、悲しいことだよ。メアリー、あんたにとってもそうだと思う」
「……わたくしにとって?」
メアリーだけでなく、私にもリジーの言ったことはよく分からなかった。
自分の罪を悔い改めずに死ぬことが本人たちにとって不幸で悲しいことなのは、おそらく、魂が浄化されず、「最後の審判」の際に神によって地獄に叩き落とされることになるからだ
(これは現代を生きる読者諸賢からすると宗教臭い考えに聞こえるかもしれないが、私のような素行の悪い人種はともかく、当時の真面目な人間の宗教観は軒並みこんな感じだった)。
だが、罪人の魂が浄化されないことが被害者であるメアリーにとっても不幸で悲しいことというのはどういう訳なのか。
リジーが3人目の治療を終えて言った。
「この人たちがあんたにできる罪滅ぼしがあるとしたら、それは自分の罪と向き合って悔い改めることだから」
左眼を潰された暴言男がリジーに擦り寄ってきたが、彼女は「あんたのは命に関わる傷じゃないよ」と言って取り合わなかった。
「わたくしはそんなこと望んでおりませんわ」
なおもリジーに縋りつく暴言男を邪険に引きはがして、メアリーが言った。
「本当に?」
リジーが真顔でメアリーを見た。
リジーは別に声を荒らげた訳ではなかったが、さっきまで強気だったメアリーが言葉を詰まらせた。
「この人たちが、あんたを辱めることを間違ってないと思ったまま、女なんか男の欲望のはけ口でしかないんだって思ったまま死んで、それであんたは気が晴れるの?」
「そう言われると、何と答えたものか迷いますけれども……」
リジーは何も言わずにメアリーの答えを待った。
「でも、裁判になったら、この下衆どもが無罪放免になりかねませんわ。男の方たちはいつも男の味方で、女の味方にはなってくれませんもの」
「それは……。でも、この場でこの人たちを殺しても問題がマシになる訳じゃないし、何事も完璧な解決を得ることはできないよ。裁判官が男ばっかりなのも、男が男の味方しかしないことも、変わっていくべきだとは思うけど、今できる最善のやり方はこの人たちを裁判所に引き渡すことなんだから、そうするしかないよ」
当時は裁判官も検事も弁護人も、例外なくみんな男だった。
だが、それに異議を唱えることは、男性中心の社会構造を批判するというだけでなく、あらゆる裁判の最高責任者である国王を批判していると受け取られかねない、危険な行為だった。
こんなに野次馬が多いところでそんな話をして大丈夫だろうか、と私は思った。
「わたくしはその『最善のやり方』とやらにこの連中を殺すことが含まれていないことに納得がいってないのですけど……。まあ、よろしいわ。それにしても、あなた、見たところ女なのに、どこまでも男の味方をなさるのね?」
「女だからとか男だからとかの問題じゃない。魂の問題だよ」
リジーが言った。
メアリーは煮え切らない顔だったが、やがて、フンと鼻を鳴らした。
「まあ、助けてしまったものは仕方ありませんわ。もう一度わたくしの手を汚すというのも面倒です。リジー、あなたの寛大な心に免じて、この場では、このろくでなしどもの命を取るのはやめておいてあげますわ」
「そう、良かった」
リジーが胸をなでおろした。