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「処刑は明日にするつもりだったが、まあいいか。アドラー嬢、お願いします」
マイクロフトが気怠げにそう言って、左眼を抑えて呻いている暴言の男をメアリーに始末させようとしたとき、「待って!」とリジーが言い、ニコラスと私を押しのけて部屋に入った。
そして、私たちが部屋を訪ねたときには既に血塗れで倒れていた男に触れた。
「どうしたんだ、リジー? こいつらは女の敵だろう?」
マイクロフトが当然の質問をした。
リジーの治癒魔法のおかげで、触れられた男はむくりと起き上がり、目を白黒させながら傷があったところをさすった。
リジーは左眼を潰されて呻いている男は無視して、2人目の患者(背後から斬られた男)に触れながら答えた。
「この人たちがメアリーにひどいことをしたってことは分かった。女性の尊厳を踏みにじる行為だし、到底許せないと思う。それに、もしあたしがメアリーの立場でも今と同じように治療するかは分からない。でも、罰を与えるにしても、殺すのはやりすぎだよ」
メアリーはリジーの治癒魔法のことを知らないので、状況がよく呑み込めていないようだった。
だが、話の内容から、どうやらこの「触れる」という行為によってリジーが男たちを治療していることには気付いたようだ。
私はこのときになって初めて、メアリーの顔をちゃんと見た。
昼間と違ってヘルメットと鎧を外しており、肩幅が広いせいで頭部が不自然に小さく見えた。
貴族の女にしては髪がボサボサに波打っていて、しかもやっと肩にかかるくらいの短さだった。
他の女と比べると大柄で体力があるので、私はもっとごつい顔を想像していたが、実際はそうでもなかった。
鷹のように鋭い目と引き締まった口元に気の強さが表れていたが、鼻は控えめな大きさで、贅肉の少ない顔はほっそりとしていた。
肌は日焼けで所々赤く、頬にうっすらとそばかすがあった。
「ちょっとあなた、こんな不届き者どもを助けて何をなさるつもりですの?」
メアリーが甲高い声を上げ、右手に血塗れの長剣をぶら下げたまま、左手でリジーの肩を掴み、彼女を男から引き離そうとした。
だが、リジーは動じなかった。
「あなた……」
「自己紹介がまだだったね。あたしはリジー・フォスター」
メアリーが何か言いそうだったのを遮り、リジーは強姦魔の傷口から手を離して、彼女に顔を向けてにっこりした。
「あんたがメアリー・アドラーだってことはジョンから聞いた」
「ジョン?」
「ジョン・マイクロフトだよ。そこにいる、カストバーグ子爵」
彼女たちが話しているのを無視して、強姦魔が「ありがてぇ、痛みが消えやがった」と呟きながらリジーの手を握ろうとしたが、彼女は彼の手を叩いて寄せつけなかった。
「ここで騒ぎが起こってることはサムって人が教えてくれた。大変な目に遭ったみたいだね」
「……そうお思いならなおさら、こんな輩を助けることは間違ってますわ」
「そうかもしれないね」
リジーは3人目の患者に向かった。
言葉とは裏腹に、リジーの動きには迷いがないように見えた。
リジーの態度に強い意志を見たせいか、罰するべきではあるが死刑は重すぎるという彼女の言葉を思い出したせいか、はたまた治癒魔法に神々しさを感じたせいか、メアリーは強いてリジーを止めようとはしなかった。