1-12
私たちがメアリーの部屋に駆けつけたときには既に、開け放たれた扉の前に人垣ができていた。
マイクロフトを先頭にして野次馬を追い払い、室内の様子を確認すると、3人の男がメアリーを壁際に追い込んでいた。
双方ともに長剣を抜いていた。
これでは野次馬たちもうかつに仲裁に入れない。
よく見ると、血まみれの男が1人、部屋に倒れていた。
我々が来る前にメアリーが倒したのだろうが、どうやらこいつの声が野次馬を呼び寄せたらしい。
「貴様ら、剣を収めろ!」
マイクロフトがそう言い放った横で、ニコラスが首をゴリッと鳴らした。
「お供がいなきゃ何もできねえ××が、偉そうに言うんじゃねえ!」
当時の身分社会の常識では考えられないことだが、男のひとりがマイクロフトにそう言った。
ここには書けないくらい汚い暴言なので伏せ字とさせていただく。
たぶん、輪姦の現場を見つかって自棄になっていたのだろう。
ニコラスが間髪入れずに飛び出そうとしたが、マイクロフトがニコラスの腕を掴んで引き戻した。
マイクロフトの表情は私の立っている場所からは見えなかった。
「良かろう、今から私は君たちを素手でひっ捕らえる。もし私に抜刀させることができたら、死罪は免じてやろう」
長剣を持った男3人を素手で制圧するなど、無茶もいいところだと私は思った。
だが、マイクロフトは本気だった。まず、暴言を吐いた張本人が斬りかかってきた。
マイクロフトは長剣をひらりとかわし、利き腕を抑え込んだ上で、左眼を指で突いた。
叫び声が、おそらく兵舎中に響いた。
残る2人はマイクロフトの身のこなしに怖気づいていた。
その隙を突いて、メアリーが背後から斬りかかり、もうひとりを倒した。
最後のひとりは、狼狽していたところをマイクロフトにあっさりと剣を蹴り落され、メアリーに刺された。
後のエピソードで言及されることではあるのですが、マイクロフトは普段から半神のニコラスと模擬戦をしているので、剣術に関して言えば相当の実力者です。
それでも長剣持ちの3人に素手で立ち向かうのはやはり無茶なのですが、ここでは、マイクロフトがいざというときには大胆な賭けに出る男であるということを描きたかったので、読者の皆さんにもそのように受け取ってもらえると幸いです。