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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第10章 ルンデン その2
143/146

10-16

 私は一瞬何がどうなっているのか分からなかったが、すぐに察しがついた。

 どうやらこのルンデン城の地下には籠城ろうじょう用の秘密の通路があって、彼女たちはそこを通って城に潜入したようだ。

 ルンデンは元々敵の城だったのだから、敵の司令部がその辺りの事情に詳しくても不思議はない。

 潜入の目的は、我が軍を混乱に陥れることだろう。

 ひょっとしたら城に火をつけるつもりかもしれない。

 早急に片付ける必要がある。


 ニコラスが首をゴリッと鳴らした。


「ニコラス、排除しろ」


 マイクロフトの指示を合図に、ニコラスがツィーノに走り込んだ。

 ツィーノも飛び出して、2人の目にも止まらぬ斬り合いが始まった。

 と思ったら、ニコラスの左手の長剣があっさりツィーノの右肩を切り裂いた。

 しかし、ツィーノはひるむことなく距離を詰め、腰を入れて左手のおのを振り下ろした。

 ニコラスはとっさに右手の剣で首を守ったが、ツィーノの斧はその剣を叩き割って彼の首に食い込んだ。

 鮮血がき出た。

 ニコラスはよろめきながらも、ツィーノを蹴り飛ばして距離を作った。


 私はこのとき、ニコラスはこの戦いで死ぬのではないか、という強い予感に襲われた。


 着地から間髪入れず、ツィーノが斧を振り上げながら、再びニコラスに斬りかかった。

 今度は頭を叩き割るつもりのようだ。

 ニコラスが折られていない左手の剣でツィーノの首を一直線に貫いた……かに見えたが、ツィーノは直前で回避行動をとっており、首を負傷したものの、動きを止めなかった。

 とはいえ、ニコラスもツィーノを蹴り飛ばして斧による斬撃をずらしてから、腰から抜いた予備の長剣ですかさず彼女の首や顔を狙い、彼女を牽制けんせいした。

 そうこうしている内に、自己治癒能力によって2人の傷は癒え、戦いは振り出しに戻った。


 ツィーノの戦い方は、敵に深手を負わせるべく手斧を振るうことを第一に考え、自分のケガをけることは二の次だった。

 いわゆる「肉を切らせて骨をつ」の戦法だが、治癒力のある半神にしかできない手だ。

 さすがのニコラスも、彼女の変則的な戦い方には少なからず戸惑っているようだった。


 私は2人の斬り合いに気を取られていたが、敵が怒号を上げながら走り込んでくるのを目の当たりにして、我に返った。

 私たちも雄叫おたけびを上げて敵を迎え撃とうとした。

 だが、そのとき再び轟音がして、雷がバートンを直撃し、彼はひざから崩れ落ちた。

 そこに、敵が押し寄せた。

 勢いを削がれた我々は、敵の猛攻をまともに受けた。


 敵はただでさえかなりの実力者揃いだった。

 それに、正々堂々と武芸で戦うだけでなく、時には泥臭どろくさだまちをすることも心得た連中だった。

 もちろん、それは私たちとて同じことだったが、経験と武器の差が物を言った。

 「ホリウスの戦い」の頃から視野が広いことに定評がある私でさえ、目の前の敵に夢中になって危うく背後から斬られそうになった。

 見渡すと、他の隊士たちも苦戦を強いられているようだった。


 ゴードンの援護で何とか目の前の敵を片付けた私は、彼と共にケビンの援護に向かおうとした。

 そのとき、視界の端に、炎上するルンデン城をとらえた。


 遅かった――これは決定的にまずい事態のような気がする。


 そう思った刹那、私は右斜め後ろから気配を感じて、とっさに身をひるがえした。

 槍を振りながら向き直ると、ひとりの敵兵が剣を構えていた。

 私と同じくらいの歳に見える若い男だった。

 そう認識した直後、彼の剣と私の槍がぶつかった。

 顔に似合わず、剣の腕は本物だ。

 私も数分間はしのいだが、後ろを気にしたすきに槍を流された。

 間合いが詰まった。

 私はとっさに足を振り上げた。

 だが、敵はひるまず、私のももった。


 当時の戦争と医療の常識では、敵の武器がかすったら死ぬことが多い。

 傷自体が致命傷でなくても、動きが鈍くなれば敵にやられやすくなるし、感染症にかかることも珍しくなかった。

 このときの私も、焼けるような痛みと共に、「俺は今から死ぬんだ」と諦めに似た感情を覚えた。


 敵はとどめを刺そうとしていた。

 彼の動作は私の目に、やけにゆっくりと映った。


 どうした訳だろう、私はそのときになって、炎上するルンデン城を見たときに危機感を抱いた理由を思い出した。


 ――この城の中には、ローラがいる。

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