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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第10章 ルンデン その2
140/146

10-13

 ローラの部屋を出たその足で、ニコラスと私はマイクロフトを訪ねた。

 犬並みに鼻がき、ウサギ並みに耳が鋭いニコラスのおかげで、無駄足を踏むことなく、マイクロフトがガルモンド侯爵やジェンキンスたちと廊下でひそひそ話をしているところを見つけることができた。


「やあ、ニコラス。ジャコブと一緒とは珍しいな。どうしたんだ?」

 私たちを見つけて、マイクロフトが声をかけてきた。

 どうやら、この日も会議があったらしい。

 だが、マイクロフトやガルモンド侯爵たちが悠長ゆうちょうに内緒話をしていることを考えると、まだ敵軍は攻めてきていないようだ。


「小隊長、内密のお話があります」

 私がそう言うと、マイクロフトは苦笑いした。

 ガルモンド侯爵たちの興味津々といった様子を見て、私は自分の初歩的なミスに気付いた。


「ここは人通りがある。場所を変えよう」

 マイクロフトがそう言い、ガルモンド侯爵たちに挨拶あいさつして、その場を離れた。

 角を曲がった途端、マイクロフトは苦々しい顔をした。

「ジャコブ、もっと慎重に行動してくれ。おかげで、どんな内容であれ侯爵たちに報告せねばならなくなった」

「それは困ります」

「心配するな。話さない方が良いことなら、適当に何かでっち上げるさ」


 執務室に入り、他人が聞き耳を立てていないことをニコラスに確認させてから、私は事情を洗いざらい話した。

 心苦しかったが、マイクロフトに嘘をきたくないというニコラスの機嫌をそこねて私が悪者にされても困るので、ローラが私を訪ねてきた夜のことも話した。

 情報通のマイクロフトもさすがにローラと私の秘密は知らなかったようで、驚きのあまり口をぽかんと開けた。

 だが、話が先刻のローラとの話し合いに及ぶと、いつも通りの引き締まった顔になった。


 私が話し終えると、マイクロフトは少し黙っていたが、やがて口を開いた。

「報告ありがとう、ジャコブ。有益な情報だった。このことは外ではくれぐれも内密に頼む」


 それで終わりだった。

 私は拍子抜けした。

 というのも、てっきりこれから作戦会議が始まるだろうと思っていたからだ。

 仕方がないので、私は自分から尋ねた。

「あの、俺はこれからどうすればいいですか?」


「当面のところ、何もしてもらう必要はない。

 ……でも、そうだな、ガレット嬢がそうおっしゃったなら、ジャコブには『ヨブ記』を読んで大まかな内容を把握しておいてもらおうか。

 追及されることはないと思うが、万が一ということも考えられるからな」


 そう言って、マイクロフトは立ち上がり、書棚の聖書を私に手渡した。


「あまり目立ちすぎるのも得策ではないが、ガレット嬢の部屋を訪ねるほど熱心なメシア教徒という設定なら、人目につくところで聖書を読んでも問題はないだろう」

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