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ニコラスのことはこれで良し。
残る問題はリヴィウスか。
私がそう確認すると、ローラとアリスも頷いた。
私は言った。
「サルフォース子爵はこの前、リジーと一緒にお前さんを訪ねに来ていたから、ニコラスよりはちゃんと信仰心がありそうだ」
「あら、そうなの?」
「ああ、たしか3月9日だ。この部屋の前で2人に会って、3人でローラがいる大広間を訪ねた」
「気付きもしなかったわ、ごめんなさい」
「別に謝ることじゃない。それはともかく、サルフォース子爵にも事情を話して、この部屋に来てもらって、話を合わせてもらえば、それで問題解決だよな?」
「さあ、それはどうかしらね。可能なら、サルフォース子爵にはわたしではなくアンドレアス神父のところに行っていただきたいわ」
ローラが苦しそうに言った。
もしかしてローラはリヴィウスを嫌っているのだろうか、と私は思ったが、そうではなかった。
「繰り返しになるけど、視察団は教皇台下がリジーを自分の影響下に置いたことに不満を持っていて、ハーディングさんとサルフォース子爵を利用して、権威を高めたいと考えているわ。
それなのに、3人が揃ってわたしのところにしか来なくて、しかもわたしが3人の弱みを視察団で共有しないとなると、彼らは納得しないでしょうね」
「そうなった場合、ローラが妬まれて何をされるか分かったもんじゃないわ」
アリスが付け加えた。
「じゃあどうする?」
私が途方に暮れてローラとアリスに問いかけると、2人は驚くほどそっくりな仕草で視線を落とした。
だが、やがてローラが言った。
「とにかく、サルフォース子爵に事情を説明して、協力を仰いでみましょう。もしそれで厳しいようなら、カストバーグ子爵に協力してもらいましょう」
ニコラスが「ん?」と反応した。
悔しいが、私にもローラの意図がよく分からなかった。
「どういうふうに協力してもらうんだ?」
「視察団の間でサルフォース子爵の評判はいまいちだけど、カストバーグ子爵は彼らの信頼を得つつあるわ。
彼らはカストバーグ子爵を自分たちに従う敬虔な信徒だと考えているはずよ。
だから、あとはサルフォース子爵がカストバーグ子爵の指示を尊重するという構図を強調して、視察団に分からせればいいのよ」
「なるほど。……待てよ、そんな手があるなら、ニコラスもそういうことにした方が手っ取り早いぜ。何しろ、ニコラスは小隊長と大の仲良しだからな」
「いいえ、不確実なことが多いから、この手はなるべく使いたくないわ。最後の手段にしましょう」
「不確実?」
「ええ。サルフォース子爵がカストバーグ子爵の指示になら従うと視察団に信じさせられるかってことも不確実だけど、そもそもカストバーグ子爵が本当に視察団から信用されているか、そして、――これはご本人には内緒だけど――彼がこの先もこの戦争と出世競争を勝ち残れるかということも不確実よ。
不確実なことが多い分、視察団を納得させるのは難しいと考えた方が良いわ」
私と同じくらいの年齢でよくここまで考えるものだ、と私は感心した。