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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第10章 ルンデン その2
130/146

10-3

 3月7日の朝、私が朝食をとっていると、ニコラスが私に目をめて、近付いてきた。

 私は嫌な予感がした。

 予想通り、ニコラスが話しかけてきた。

「手前、俺になんか話があるらしいな」


 同じ6人班の連中が注目する中、私は答えた。

「あ、ああ。お前とちょっと……おしゃべりしたいと思って」


 リジーめ、やってくれたな。


「話? 何だ?」

「あー、……好きな女のタイプとか?」

 他に話題がないので、私は恐る恐るそう言った。


「朝から下ネタ・トーキングかい?」

 とサマセットが呟くと、当時、私と同じ班だったショーンとデイルが愉快そうに笑った。

 だが、ニコラスはにこりともしなかった。


「胸が小さいとか、そういうことか?」


「へー、ニコラスっておっぱい小さいが好きなのか!」

 ショーンが嬉しそうに声を上げた。

 彼の大声のせいで、同じ班だけでなく他の連中にまで注目される羽目になった。


「せ、性格とかは?」

 私が尋ねると、ニコラスは「せいかく?」と聞き返してきた。

 まさか「性格」という単語の意味を教えねばならないのだろうか、と私が思っていると、

「元気なが良いとか、おしとやかなのがいいとか、あるだろ?」

 と、ショーンがニヤニヤしながらたずねた。

 ニコラスは少し考えてから、

「元気な方が良いな」

 と答えた。


「ペチャパイで元気な娘となると、やっぱりリジーか?」

 その口ぶりから考えて、ショーン自身もきっとリジー派だったのだろう

(「リジーはチャーミングな女の子ネ」とサマセットが口を挟んだが、みんなニコラスの答えを待っていたので、結果的に放置スルーすることになった)。

 ニコラスは顔をしかめた。

「リジーは友だちだ。女としてどうこうじゃない」

 ニコラスの表情がとぼしいので、本気で言っているのか照れ隠しなのか、私には確信が持てなかった。

 ショーンはそのことをあまり気にしていないようで、

「リジーに女としての魅力がないってか?」

 とニコラスに食ってかった

(「リジーはチャーミングな女の子ネ!」と、サマセットがさっきより大きな声で繰り返したが、みんなの聞こえないふりは変わらなかった)。


「あいつは女なのか、よく分からん」

 ニコラスが意味不明なことを言った。

 ショーンはなぜか吹き出した。

 リジーがニコラスの言葉を聞いたら怒るだろうな、と思いつつ、私は核心に迫ることにした。


「ガレット嬢はかなりの美人だが、彼女についてはどう思う?」

 ショーンが、私の気も知らずに口笛を吹いた。

 そのせいで、サマセットも手を叩いてはやし立てた。

「さすがのジャコブも、ローラちゃんの魅力には勝てなかったかぁ。たしかに××な顔だよなぁ。でも、言っちゃ悪いが、聖職者様を手玉に取るのは罰当ばちあたりだぜ」

「誘い乱れるCARNIVAL(カーニバル)!」

 なんでこいつらはこんなに楽しそうなんだろう、と私は思った。


「ガレットって誰だ?」

 ニコラスが真顔でいてきたので、私は仕方なく説明した。

「ローラ・ガレット。俺たちを視察に来てる神父たちと一緒にいる女だよ」

「ん?」

「美人で」

「……」

「でこっぱちじゃない方」

「ああ、あいつか」

 あまりにも興味なさげな口ぶりだったので、さすがの私もローラがあわれになった。


「おいおい、その言い方はねぇだろ。ローラちゃんの何が不満なんだ?」

 デイルが言った。

 不満以前に、デイルはローラについて顔以外の何を知っているのだろうか。

「神の話ばっかりでつまらん」

 ニコラスが冷淡に言った。

 これをそのままローラに報告したらショックを受けるだろうな、と私は思ったが、しかし、そのまま報告しようとも思った。

 荒療治あらりょうじではあるが、恋を諦めさせるには多少のショックはやむを得ない。

「ニコラスはガレットさんとおしゃべりしたの?」

 それまでこの会話を見守るだけだったゴードンが尋ねると、ニコラスはごくつまらなさそうに「呼び出されて、話した」と答えた。


「いいなぁ! 俺もローラちゃんからご指名されたい!」

 デイルがほとんど叫ぶように駄々をこねると、ショーンがたしなめた。

「でも、神様の話を聞かされるんだろ? えるわ」

「何言ってんだ、あんな可愛い娘とおしゃべりできるんだったら何でもいいよ」

「俺、堅物かたぶつの女って苦手なんだよな。お高く留まってる感じがして」

「バカ、お高く留まってる女とヤるからいいんじゃねぇか」

「××な女は××って、噂には聞くけど、本当なのかな?」

「軽薄なお前の一生にはまたゆるい女がお似合いだよ」

「ひでぇ」

 ショーンとデイルが2人で盛り上がっていた。


「それで? この話に何の意味があるんだ?」

 ニコラスが面倒くさそうに私を見た。

「いや、意味というか何というか、本当に単におしゃべりしたかっただけなんだ。付き合ってくれてありがとう」

 私が礼を言うと、ニコラスは腑に落ちない顔で首をかしげたが、黙って朝食のパンを取りに行った。

 その後、「ニコラスは貧乳好き」という情報が瞬く間に小隊中に広がり、みんながニコラスに対して少しばかり親近感を持つようになった。

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