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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第1章 ノーリンドン
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1-10

「ところで、リジー、さっきのは何だい?」

 マイクロフトが私の右手首を指さしながら尋ねた。

 リジーは「さっきの」と言われてもとっさには何か分からないようだったが、彼女に代わってニコラスが答えた。

「治癒魔法だよ」

 その黒い点はシミじゃなくてホクロだよとでも言っているような何気ない調子だった。

「こいつぁな、触った相手のケガを治せるんだ」

 マイクロフトは目を見張った。

「……リジー、君は救世主と同じ奇蹟を起こせるのか?」


 神の教え(メシア教)を我々人類にもたらした救世主は、様々な奇跡を起こしたと伝えられている。

 人々の病や傷を癒すのは、奇蹟の中でも最もよく知られるものだ。

 メシア教の教えでは唯一の神と人間の間に生まれたのはただひとり救世主のみとされ、奇蹟を起こす力を持つ者は神と天使と救世主を除いて存在しないことになっている。

 ただし、民衆の間には、敬虔な信徒は奇蹟を起こす力を持つという信仰があった。

 これは「真の信仰は山をも動かす」という御言(みことば)に影響を受けた伝説である

(当然ながら大抵の聖職者は奇蹟を起こすことなどできないため、これらの伝説を不都合に思っていることだろう)。


「救世主様と同じ奇蹟だなんて、そんな大層なものじゃないよ。自分でもどうしてできるのか分からないし」

 リジーは照れくさそうにそう言ったが、治癒魔法の存在を否定しなかった。

 マイクロフトが居住まいを正した。

「もしかして、君もニコラスと同じで、いわゆる半神(デミゴッド)なのか?」

「うん、そうだよ」

 リジーは何事でもないかのように答えた。

 マイクロフトが感嘆の吐息を漏らした。


 半神と言えば、多神教の神話に出てくる神々の子どものことだ。

 自ら半神と名乗るなど、当時の我が王国では御法度(ごはっと)もいいところだった。

 何しろ、我が王国では600年以上前から多神教は排除されるべき異端のものであり、メシア教こそが正統な教えとされていたからだ。

 さらに、一神教であるメシア教の世の中で「神の子」と言えば救世主その人のことだし、それ以外に神の子がいるはずがない。

 メシア教の国で半神と名乗ることは、おこがましくも救世主を名乗るに等しい行為だ。

 そんなことをすれば、逆に悪魔や魔女やその手先と言われる恐れがあった。


「あ、半神と言っても、神様の御子(みこ)とか救世主様のことじゃないよ」

 私の驚きを察したらしく、リジーが言った。

「多神教の頃の古い言い方だけど、他に良い呼び方がないからそう呼んでるんだ」

「それじゃ、人の子なのに、(おそ)れ多くも『半分は神(デミゴッド)』を名乗ってるのか?」

 私は尋ねた。この場合の「畏れ多くも」というのは、メシア教の教えに反するのにという意味だ。

 だが、リジーはあっさり答えた。

「そうだよ」

「人の子でありながら、2人は超常(ちょうじょう)の力を持っている。だから『半神』という訳だ」

 マイクロフトが言った。

「伝承の英雄たちや国内外で噂になっている方々も半神かもしれないとは聞いていたが、まさかこうもあっさりと半神に出会えるとはな」

 マイクロフトの発言からすると、どうやら半神は、ありふれている訳でもないが、そこまで珍しいものでもないらしい。

 私は子どもの頃に英雄たちの伝承を聞いても半信半疑だったし、国内外のそれらしい噂など聞いたことがなかったので、世界観を崩された衝撃でしばらく立ち直れそうになかった。

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