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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第10章 ルンデン その2
128/146

10-1

 私は安請け合いしてしまったが、再びローラを訪ねるには2つ問題があった。

 1つは、スタンリーの手伝いや語学講座がいつ入るのか、私が知らなかったことだ。

 軍隊生活を送る私には、スタンリーに関係する用事以上の優先事項はなく、したがって不意に入ってくるこれらの用事を、私が断ったことは今までなかった。

 ローラの所に行くことをスタンリーに話せない以上、ローラとの約束よりもスタンリーの用事を優先せざるを得ない。


 もう1つの問題は、先日の会議で議題に上がっていたように、敵が何か仕掛けてくる恐れがあったことだ。

 私がすぐにルンデンを離れる展開にはならなそうだが、夜の見張りなどの軍務を命じられる可能性があった。

 また、私の都合がついても、視察団の一員であるローラの都合が悪くなることも考えられた。


 私がこうしたことに気付いたのは、残念ながら、ローラの部屋を出た後だった。




 翌3月6日の朝、食堂でニコラスを見かけて、私は妙な気分になった。

 奴はいつも通りひとりでライ麦のパンを食っていた。


 ――たしかに男女を問わず自分の知らないタイプの異性に惚れることはあるし、ニコラスはローラの身近にいた男たちとは異質なタイプだろう。だが、それだけであんな男に惚れるものだろうか。


 私はローラから、彼女のことをどう思うかニコラスにいておくように頼まれていたが、私が()()()()近づいてローラのことを話題にすれば不自然に思われるに違いないし、何より周りの視線を集めてしまう。

 ハードルを下げて好きな女のタイプを訊くにしても、何かしらのきっかけが必要だ。

 私はケビンたちと一緒に朝食をとっている間、あれこれと思案したが、このときは良い案が浮かばなかった。




 その日は朝の9時から、先日の会議を踏まえて、新たな情報の共有と状況変化の確認が行われた。

 ダームガルス軍は着々とルンデン攻略に向けて準備を進めているそうだ。

 籠城を念頭に置いた動きは見られず、短期決戦を挑んでくる可能性が高いという。

 どうやら敵軍も、戦闘の先送りが我が軍を利することになりかねないと気付いたようだ。

 リジーの「聖女」認定について噂を聞きつけたダームガルス王室は、自国内の大司教と教皇庁に対して厳重に抗議したとのことだ。


 ラースガード伯爵の情報を信じるなら、今のところ、ランドン、カロス、ポラリス、ルンデンの各都市に、反乱を匂わせる不穏な動きはない。

 ランドンを除けば我が軍は略奪行為を働いていないので、民衆の不満はさほど大きくないようだ。

 むしろ、リジーの治療を受けようと多くの人々がルンデンを訪れており、我が軍の好感度は控えめに言っても上昇傾向だという。


「アンドレアス神父のご一行もフォスターに好印象を抱いているようですし、教会に対しても良い形でご報告してくださるでしょう」

 ガルモンド侯爵が言った。

「しかし、それにしては何か二の足を踏んでいらっしゃるように見受けられますね」

 ラースガード伯爵が指摘した。

 ガルモンド侯爵は頷いた。

「我々としてはなるべく早く教会の協力を取り付けたいところですが、そうはいっても安易に圧力をかける訳にも参りません。フォスター、ハーディング、サルフォース子爵の人柄について、引き続き丁寧に説明をおこなっていくしかないでしょう」


 もしかして――。

 私はガルモンド侯爵たちの会話を聞きながら、唐突にひとつの可能性を思いついた。

 ――視察団が教会への報告を渋っているのはローラがストップをかけているからではないのか。

 報告を送るということは視察団が用済みになるということであり、そうなれば彼ら彼女らはルンデンを離れて帰国することになる。

 となると、ローラがニコラスに会うチャンスがすっかりなくなってしまう。

 それを防ぐために、ローラは何かと理由をつけて教会への報告をしぶっているのだ。

 そして、(普段は)聡明な彼女が難色を示せば、他の司祭たちも強硬な態度を貫けないのではないか――。

 恐ろしい想像だが、あり得ないとは言えない。


 会議では、視察団はおそらく水面下で一般兵たちに聞き込みをして、ニコラスとリヴィウスの評判をさぐっているのだろう、という憶測が出た。

 だが、それ以上突っ込んだ話には発展しなかった。

 民衆は軍隊よりも教会の味方なので、仮に我々軍隊が教会関係者に圧力をかけても、それを表沙汰おもてざたにされれば逆効果になる。

 そのため、教会への報告は教会関係者たちにゆだねるしかない、というところで議論が行き詰った。


 教会の協力を当面は期待できない以上、我が軍としては時間を稼ぐ必要がある。

 ということで、時間稼ぎを兼ねて、ダームガルスに対して和平交渉を行うことになった。

 我々ウベルギラス軍が提示する講和の条件は、我が軍が「解放」に成功したランドン、カロス、ポラリス、ルンデンとその周辺地域をウベルギラス王国に割譲すること、に決まった。

 当然と言えば当然の要求だが、ダームガルスとしては簡単には呑めないはずなので、一度交渉が始まれば長くなるはずだ。


 また、前回のマイクロフトの提言に沿って、ランドン、カロス、ポラリス、ルンデンに西部防衛軍の兵力を分散する案が議論された。

 西部防衛軍4500の内、2500をルンデンに残留させ、3都市に700弱ずつ配分することになった。

 一般的に、城の攻略には3倍の兵力が必要と言われている。

 逆に言えば、敵に3倍の兵力で襲われれば籠城しても耐え切れないということだ。

 ダームガルスとジルブラドの連合軍6000を2500の兵でしのごうというのは割とギリギリだな、と私は思った。

 マイクロフト小隊を含むジェンキンス隊がルンデンに残留することは、議論が始まって早々に決まった。

 ランギス姉弟がいるキリングス隊もルンデンに残留することになった。


 どうやら、2日後にローラに会いに行く約束は守れそうだ。

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