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ローラは自由に恋愛を楽しんで良い立場の人間ではないし、ニコラスも彼女の恋心を得るにふさわしい男ではない。
私の役目は2人の橋渡しではなく、恋に恋する少女の幻想を打ち砕くことだ。
「信仰心のことを別にしても、あいつはあなたが思っているほど良い男じゃありませんよ」
私はニコラスが実際にはどんな人間であるか、ローラとアリスに話した。
――元々が決して美男子ではない上に、平常通り仏頂面をしていると腹を壊した狼のようだし、たまに笑っても、狼が獲物に狙いを定めたようにしか見えない。
ぼそぼそと低い声でしか話さず、こちらが聞き取れないとすぐに舌打ちする。
話す内容にも知性が感じられないし、乱暴な言葉をよく吐く。
物の食べ方が汚く、肉を食べれば耳障りな音を立てながら骨まで噛み砕く。
体が痒くなるらしく、脇や股などを人目も憚らずによく掻く――。
言い始めてみると次々に欠点が出てきて、私は自分で話しながら驚いてしまった。
しかし、私の思惑はローラには逆効果だった。
「美男子じゃないなんてとんでもない! あんなに雄々しく猛々しい方に、失礼よ。
あの低い声はセクシーよね。耳の悪い方には聞き取りにくいかもしれないけど、わたしには細部まで聞き取れるわ。
言葉遣いや物の食べ方がマナー通りじゃないのは、多くの男の方がそうだから気にならないわ。
お肉を召し上がるときに骨まで噛み切るのはむしろ美点ね、わたしもそういう丈夫な歯が欲しい。
体を掻く癖があるってあなたは否定的に言うけど、あの人は他人の目をいちいち気にしないのよ。
さすが最強の戦士! 男の方はそうでなくっちゃ!」
恋は盲目とはよく言ったものだ。
それに、ローラが抱く理想の男性像もほどよく歪んでいた。
「それにしても、信仰心に働きかけてあの人にいらしてもらうという手が使えないとなると、別の手を考える必要があるわね。ジャコブ、何か良い考えはない?」
「……こうなったら、夜に直接ニコラスのところに行くしかないんじゃないですか? 俺のところには来たんだから、あいつのところにもきっとたどり着けるでしょう」
私は半分自棄になってそう答えた。
ローラがニコラスと密会してそれがバレたとしても、ひどい目に遭うのはローラと教会関係者くらいのもので、よく考えたら私に実害はないはずだ。
もう勝手にやってくれ。
すると、ローラの顔が見る見る内に赤くなり、アリスが失望したような顔をした。