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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第9章 ルンデン
124/146

9-16

「差し支えなければ、お聞きしたいんですが」

 私は長々と謝った後だったので、少しためらいながら質問した。

「昨晩の用事は一体何だったんですか?」

 すると、ガレット嬢は話すのを渋るようにもじもじした。

 上目遣いで私の顔を覗き込んでくる仕草は、たぶん意図してはいなかったと思うが、私を悩殺するのに充分な可憐さだった。

 私は平常心を崩さないように腹に力を込めた。

「実はね、ハーベイさん……。ううん、ジャコブって呼んでいい? わたしたち、そんなに歳も違わないみたいだから。あなたもわたしのこと、ローラって呼んで」

「どうしたんですか、急に?」

「まあ、何というか、お友達になってほしいってことよ」

「……それは嬉しいですけど、まさか、昨晩の用事はそれですか?」

「いいえ、違うわ。でも、お友達じゃないとこんなこと頼めないから」

 ローラは深呼吸して、覚悟を決めた顔になった。

「ジャコブ、あなたに協力してほしいことがあるの。わたし、ハーディングさんともっとお近づきになりたくて」


 急に名前が出てきたので、とっさには「ハーディングさん」が誰のことか分からなかった。

 だが、3秒ほど考えて、ニコラス・ハーディングのことだと気付いた。

 その後、どうやらローラがニコラスに惚れているらしいと理解して、私は驚いた。

 彼女が本気で言っているとしたら、これは由々しき事態だ。

 ――いや、待て、俺はまた早とちりしているだけなのではないのか。昨晩の失敗も俺の早合点から起こったではないか。


「お近づきになりたい、というのは……?」

「あの人のことをもっとよく知りたいの」

「何を知りたいんですか?」

 我ながらかなり無粋な質問だと思ったが、ここをはっきりさせておかないと前夜と同じ轍を踏みかねない、と私は思っていた。

「ローラ、わたしから話してもいいかしら?」

 アリスが横から言った。

「……ええ、お願い」

「簡潔に言うわね」

 アリスがのんびりと気楽な口調で話し始めた。


「私たちがこの城に到着した日、あなたも居合わせたあの応接室で、ローラはハーディングさんに恋したの。一目惚れよ」


 アリスの物言いにはためらいがなかったが、ローラは真っ赤になった。


「数日経って、ローラはハーディングさんと話がしたいと言ってカストバーグ卿に掛け合ったの。

 それが実現したのがつい昨日。

 ローラは一対一での対談を希望したけど、男女が2人きりになるのはまずいということになって、教会の司祭たち、護衛の騎士たち、そして私が同席することになったわ。

 だから、ローラは自分の気持ちを打ち明けることはおろか、ハーディングさんに踏み込んだ質問をすることもできてない。

 ハーディングさんもカストバーグ卿に口止めされたのか、生返事ばかりでろくに口を利かなかったわ。

 ローラがハーディングさんと親しくなったり、彼のことをもっと深く理解したりするためには、ハーディングさんの方からローラを訪ねてもらって、彼と彼女が2人きりになる状況を作るしかない。

 悩み事の相談とか懺悔なら、信徒と助祭が2人きりになるのはごく自然なことだものね。

 それで、ジャコブ、あなたの協力を得るために、ローラはわたしが寝ている隙に、護衛の騎士たちには夜の散歩だと言って、あなたの(もと)を訪ねたという訳よ」

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