9-12
私たちは人目につかない暗い通路に入った。
私は物陰から誰か出てきやしないかと警戒したが、誰の気配も嗅ぎ取れなかった。
マントの女が足を止めて、振り向いた。
夜のわずかな光を反射して輝くブルーの瞳。
それを見て、私はハッとした。
「こんな夜分に、素性も明かさないまま連れ出してごめんなさい。わたしはローラ・ガレットです」
その声はたしかにガレット嬢のものに思えた。
打ち消したはずの可能性が再浮上した。
あのガレット嬢が私のところに夜這いにやってきた。
常人離れした美貌を誇るガレット嬢に惚れられて、男として嬉しくないはずがない。
それも、将来有望な貴族のマイクロフトや、実力者のニコラス、インテリのスタンリーを差し置いて、この私が絶世の美女をものにするのだ。
劣情と緊張に支配されていなければ、私は文字通り小躍りしていただろう。
だが、これはとんでもないスキャンダルに違いなかった。
何しろ、メシア教会の聖職者は男性であっても妻帯が禁じられていたのに、例外的に認められた女性の助祭が、まるで売春婦のように、しかも平民の私に、婚前交渉を求めてきたのだから。
「今夜は、あなたにお願いがあって参りました」
女性にこれ以上語らせるのは野暮というものだろう。
他の隊士に女嫌いと思われている私にも、さすがにそれくらいの了見はあった。
私は最後の確認をすることにした。
「ここで、ですか?」
「この時刻なら人は通らないでしょうし、他に適当な場所もありません」
「たしかに、そうですね」
私はガレット嬢との距離を詰めた。
彼女はかすかに身を引いたが、私の両手は彼女の両肩を掴んでいた。
マント越しに彼女の肩のやわらかな感触が私の手をしびれさせた。
読者諸賢はきっと「何を童貞のようなことを言っているんだ」とお思いだろうが、ハリントンで散々女を買った私がまるで童貞のように緊張してしまうほど、ガレット嬢の美しさは飛び抜けていたのだ。
「ダメ……、待って」
ガレット嬢がそう言ったが、私は聞かなかった。
私は確信を持って言うが、当時は、女の「イヤ」「ダメ」「待って」を真に受けてはいけないと、全ての男が思っていた。
私は彼女のフードを外した。
石鹸の香りが鼻を突いた。絹のように滑らかな黒髪と、粉雪よりもさらに白い肌があらわになった。
私は彼女を押し倒し、体中を愛撫しながら、服を脱がせていった。
ガレット嬢は聞き取れないくらい小さな声で何か言いながら両手で顔を覆ったが、身を震わせるばかりで抵抗らしい抵抗はしなかった。
そのため、私は彼女の様子を羞恥と処女を失う不安によるものだと思い、「怖くないですよ」「大丈夫ですよ」と呟くように語りかけた。
一枚脱がすごとに、いや、彼女の衣服に触れるたびに、私は男としての興奮を噛みしめたが、その詳細をここに書き上げることは、ガレット嬢の名誉を不必要に貶めることになるので控えようと思う。