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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第9章 ルンデン
119/146

9-11

 3月4日の深夜、私はいつものように教練で疲れ切って6人班の寝室で眠っていた。

 だが、誰かに揺り動かされて目が覚めた。

 暗がりの中、眠気眼をこすると、目の前に暗い影があった。

 それを男の顔だと認識したとき、私はベッドの上で身を引いてしまった。


「……ケビンか。近くないか?」

 寝室はしんと静かで、ケビンと私以外に起きている者はいないようだったので、私は他の隊士を起こさないように小声で言った。

「ごめん。あんまり暗いからジャコブかどうか分かりにくくて」

 ケビンが囁き返した。

「まだ夜中だろ。何の用だ?」

「俺じゃない。用があるのは彼女だ」

 私たちの声が耳に入ったのか、隊士のひとりが眠りながら唸り声を上げた。

 ケビンと、その後ろでひとりの小柄な人影が、身を強張らせるのが見えた。

 どうやら極力人目につきたくないらしい。

 ケビンが「彼女」と言った人影は確かに女のようで、小柄な体つきをしていた。

 だが、ただでさえ暗い上に、マントを着込んでフードを目深(まぶか)に被っていたので、顔を確認することはできなかった。

 ケビンは彼女を私のもとへと手招きしたが、彼女は無言で寝室の出入り口を指し示して、忍び足で寝室の外に出ていった。


 私はケビンの顔を見た。

 ケビンも私を見て、首を傾げた。


 この状況の意味を考えるに、第一に浮上する可能性は夜這いだ。

 だが、売春婦の夜這いにしては、私を指名したことが不可解だ。

 私は売春婦に指名されるほど金持ちでも有名人でもないからだ。


 私に恋情を抱く誰かの可能性もなくはないが、私の方に心当たりがない。

 ここ最近で会った女性と言えば、リジー、メアリー、アニー、ガレット嬢、その付き人の女の子の5人くらいだが、誰をとっても私に好意を寄せている様子はなかった。


 となると、残る可能性は私を殺しに来た刺客だ。

 その色香で私を油断させて、隙を突いて殺す気なのだろう。

 だが、そうなるとケビンに私を起こさせたのはひどく間抜けだ。

 暗殺者なら寝室にいた男たち全員の寝首を掻くくらいして然るべきだろう。

 それに、そもそもマイクロフトの補佐役としてさえ見習いの私が、今ここで狙われて殺される理由が思いつかない。


 それでも、私は彼女が刺客である可能性を警戒して、長剣を持っていくことにした。

 ケビンはついてこなかった。

 夜這いだった場合はついてこられると気まずいことになるし、刺客だった場合も女ひとりが相手なら自力でどうにかできるはずだった。


 廊下に出ると、窓の外で粉雪が降っていた。

 マントの女と私は冬の夜風に身震いした。

 彼女は私の長剣に目を留めたようだったが、間もなく無言のまま歩き出した。

 私も何も訊かずについていった。

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