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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第9章 ルンデン
118/146

9-10

 さて、王都からやってきた聖職者たちは、歓迎会の後に我々西部防衛軍の視察を始めた。

 彼ら彼女らは揃いも揃ってすっかりリジーを気に入り、彼女に案内を頼んだが、彼女は先述の通りバーバル小隊の仕事に忙殺されていた。

 そのため、聖職者たちの案内はスクライブ伯爵の部下の騎士2人とスタンリーの3人が持ち回りで務めた。


 当然、聖職者たちはマイクロフト小隊の教練の視察にもやってきた。

 その日、私たちは普段通りに模擬戦をしていたが、視察団が見えると一旦教練を中断し、整列して敬礼した。

 それから、マイクロフトの指示に従って模擬戦を再開したが、みんないつもより気合が入っていた。

 きっと美人のガレット嬢に良いところを見せようと張り切っていたのだろう。

 マイクロフトとスタンリーがナヌラーク、バートン、メアリー、レイモンド、ウィルソンといった実力者たちを紹介するのを聞きながら、聖職者たちは私たちの模擬戦をじっくり見ていった。

 最後になって、マイクロフトが改めてニコラスを紹介した。

「我が小隊が実力者揃いであることは既にご覧いただいた通りです。その中でもニコラスの強さは飛び抜けています。彼がいかに優れた戦士であるかを、今から御覧に入れましょう」


 男たちの顔が(ひが)みと不安に(くも)った。

 ガレット嬢が見ている前で、ニコラスの模擬戦相手を務めてボコボコにされるのは、さすがにプライドが許さないのだろう。

 果たしてマイクロフトは誰をニコラスのサンドバッグに選ぶのだろうか、と思っていると、ケビンと私が指名された。


 マイクロフトがどういう意図で私たちを選んだのかは定かでない。

 たまたま目に留まったのかもしれないし、故郷に妻子がいるケビンと女嫌いの私ならガレット嬢の前で良い格好をしたいとは考えないはずだと思われたのかもしれない。

 どちらにしても、私にとってはとんだ災難だった。


「ん、この人の顔にはどこか見覚えがありますな」

 前に進み出た私を見て、司祭のひとりがそう言った。

 彼と私にはほとんど接点がなかったし、私もこの司祭の名前を覚えていなかったので、失礼なのはお互い様だった。

 だが、すかさずガレット嬢が言った。

「ジャコブ・ハーベイさんです。王都からここまでの旅をご一緒した方です」

 ガレット嬢が私の顔だけでなく名前まで覚えてくれていたことに、私は驚いた。

 他の隊士たちが私以上に驚いて、その場が少しざわついた。


「ほう、そうでしたか。カストバーグ卿、この人も実力者ではあるのでしょうな?」

「ええ。ジャコブは槍を使わせればなかなかのものです。彼と、怪力のケビンの2人掛かりなら、ニコラスともまともな試合ができるでしょう」

 私はマイクロフトがケビンと私をそのように認識していることを、このとき初めて知った。

 ちらりと見ると、「怪力のケビン」はすっかり緊張していた。

 戦場でこそヒートアップする男だが、普段は謙虚な小心者なのだ。


 マイクロフトに言われた通り、ケビンと私は2人掛かりでニコラスと模擬戦をした。

 だが、ニコラスがここぞとばかりに本気を出したので、私たちは3分と耐えられずに蹴散らされてしまった。

 私が思うに、決して「まともな試合」と言えたものではなかった。

 聖職者たちの拍手がまるで私たちを嘲っているように思えて、私は少なからず惨めだった。

 ガレット嬢は拍手もせずに、まるで恋する乙女のような呆けた顔でニコラスを見つめていた。

「ありがとう、ジャコブ、ケビン。良い試合だったよ」

 マイクロフトのその言葉も、私にはひどく空虚なものに思えた。


 聖職者たちは一通り各部隊の視察をした後もルンデンに残留し、敬虔な将兵たちの相談を受けたり、医療班の仕事を手伝ったりした。

 ルンデンは数ヶ月前まで敵地だったので、彼らにとってもそれほど安全な場所ではないはずだ。

 なぜ彼らは本国の教会や教皇庁に報告を送ることもなく、もたもたとこんな所に留まっているのだろう、と私は訝しんだ。

 スタンリーによると、彼らの目的は半神であるニコラスとリヴィウスの人間性(主に信仰心)を見極めることにあるはずなので、おそらくその見極めに手間取っているか、聖職者たちの間で意見が割れているかのどちらかだろう、とのことだった。

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