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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第9章 ルンデン
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9-9

「でも、それじゃなおのことリヴィウスを前線には送れないよ」

「なんで『なおのこと』なんだ?」

「リヴィウスが悔い改めて2人に許してもらわないと、殉教しても魂が罪を背負ったままになるからだよ」


 ここで言う「殉教」とは「聖戦で戦死すること」を指す。

 当時の戦争は根拠の1つとして宗教を掲げることが多く、その意味でほとんど全ての戦争が「聖戦」であり、そこで死ぬことは「殉教」という扱いだった。

 もちろん、この戦争もまた、国王とそれに従う大臣たちは臣民を動員するために「聖戦」だと主張していた。

 ただし、国際的なネットワークを持つ教会はウベルギラスとダームガルスのどちらにも肩入れしたくはないという立場で、「聖戦」と主張するにはやや正統性が欠けるような状況だった。


 リジーが続けた。

「それに、軍隊にとって得になるとかならないとか、そんなことで危険に晒されたら、死んでも死にきれないよ」

「いや、軍隊ってのはそういうもんだろ」

 私は深く考える前にそう言っていた。


 基本的に軍隊は戦争に勝つための組織だ。

 それが勝利のためになると判断されれば、兵は囮にも捨て石にもされる。

 また、上官から見て役に立たなかったり扱いづらかったりする兵は、前線で矢面に立たされ、消耗品として使い捨てられる。

 前線に立てば出世の可能性が高いだの、それ自体が名誉だのといくら取り繕っても、少なくとも当時の軍隊はそういうところだった。

 私がそのことに気付いたのはガースでの戦闘を経てからで、気付いたときはえらく失望したものだったが、この頃の私はそれを現実として受け容れ始めていた。

 諦め始めていた、とも言える。


 リジーは私を見つめて言った。

「ジャコブ、人は軍人である前に人なんだよ。人の心を失った軍隊はただのならず者集団だよ」

 それは私が「ホリウスの戦い」のときに抱いた違和感と通じるものがあった。

 その違和感とは、つまり、人は軍人である前に人なのだから、本人の正義も矜持もない状態で遺体を踏みつけられるべきではない、という感覚だ。

 私はリジーの言葉を、現実とは必ずしも合致しないまでも、私自身も諦めたくなかった信念だと認めて、「たしかに、それはそうだな」と答えた。

 そして、少し考えてから続けた。

「となると、メアリーとアニーに掛け合ってリヴィウスの説得を手伝わせるより、マイクロフトを説得した方がいいんじゃないか?」

「ジョンを? どういうこと?」

「リヴィウスを前線に出させないように、マイクロフトに進言した方がいいってことだよ」

「あ、なるほど」

「ただ、リヴィウスが役に立つか分からなくても、マイクロフトはとりあえず前線に送るつもりだと思うけどな」

「分かった。役に立たないんだったら前線に立たせちゃいけないって、ジョンに掛け合ってみる」

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