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私は正直、この噂を聞いたときは「いいざまだ」と思ったが、その夜、殴られたリヴィウスの様子を見てさすがに憐れに思った。
傍から見てもすぐに分かる顔の部分だけでも、何本ものミミズ腫れがニキビとごった煮状態で潰されて、血がダラダラと流れていた。
口だけでなく目も容赦なく鞭で打たれて、腫れ上がっていた。
さすがに、放っておけばそのうち治るという傷でもなかったし、リヴィウスが公爵家の子息ということもあって、緊急にリジーが呼ばれて彼を治療した。
リジーが触れると、傷が癒えただけでなく、元々あったニキビまで消えて、リヴィウスは以前よりきれいな顔になった。
ただ、そのせいで目の充血が目立ってしまい、リヴィウスが必死に涙を堪えていたことが隠せなくなってしまった。
「やりすぎだよ」
リジーはこの件でも、ケガ人のリヴィウスよりも加害者のニコラスに対して不機嫌だった。
リジーに叱られてニコラスはたじたじだった。
「でも、悪いのは……」
「リヴィウスはまだ子どもでしょ。腹を一発蹴れば黙る相手なんだから、ムキになってボコボコにする必要はないの」
「でも、お前のこと××って……ん? まるで腹を蹴ったことがあるような言い草だな」
「蹴ったよ。それがどうかしたの?」
「鞭で殴るのと変わんねえじゃねぇか」
「だから、あんたのはやりすぎだって言ってんの」
「ああ、そうか」
スタンリーによると、リヴィウスはこの事件の翌朝には、責任者であるマイクロフトに働きかけたようだが、マイクロフトはこう言って応じなかったらしい。
「サルフォース卿、この冬が明けてダームガルスの悪鬼どもと戦うことになれば、殿下の力が我が王国軍に必要となるのと同様に、ニコラスの力もまた必要になるのです。どうかご理解ください」
私はスタンリーからその話を聞いたとき、マイクロフトの主張が一貫していることに感心してしまった。
彼にとって大事なことは、いかにして帝国の半神に打ち勝つかということであり、それに比べれば、味方同士の争いや禍根など些末な問題に過ぎなかったのだろう。