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歓迎会は城の大広間を中心に盛大に行われた。
宴会に先立ってリヴィウス、リジー、アンドレアス司祭の3人がスピーチをした。
リヴィウスとリジーのスピーチはそれぞれプライモア公爵とマイクロフトが用意した筋書きをなぞったもので、王国軍に加われて誇らしいとか、正統なメシア教徒として自分の力を認められたことは身に余る光栄だとか、我が王国軍の勝利と皆さんのご健勝をお祈り申し上げるとか、当たり障りのないものだった。
アンドレアス司祭のスピーチは他の2人よりも長かったが、順番が最後だったこともあって一般兵でまともに聞いている者など少数派だったし、私も聞き流してしまった。
歓迎会と言っても、兵士の多くは思い思いに仲の良い面々と飲み食いを楽しむだけだった。
リヴィウスはやはり身分意識が抜けないらしく、一般兵に混じって出席したドクター・バルディッシュが話しかけようとしても相手にしなかった(ドクターは後日、リヴィウスを質問攻めにしたそうだ)。
リジーのところには、医療班で既に彼女の世話になったことのある兵士たちが、体に悩みを抱える仲間を連れて詰めかけた。
聖職者たちはリジーの治癒魔法に興味津々で、治療を受けた兵士たちと一緒になって感動していた。
ガレット嬢の付き人は気楽なもので、聖職者たちと一緒に歓声を上げていたが、一方で、護衛の騎士たちは彼女たちがどさくさ紛れで変なことをされないよう、絶えず神経を張り詰めていた。
マイクロフト小隊の皆は、私たちが顔を出すと快く迎えてくれた。
留守を任されていた副長のレイモンドによると、敵軍にいくつか動きがあったと諜報部の人間が暗号文を置きに来たことと、ケビンの母親を含むビロウムという街の婦人会が我が子の様子を見に来たこと以外、特に変わったことはなかったという。
この「変わったこと」に、隊士たちの小競り合いが含まれていないことは言うまでもない。日常茶飯事だからだ。
「ビロウムからお袋さんたちが来た? そんな話聞いたことないぞ」
マイクロフトが言うと、レイモンドがうんざりしたように答えた。
「俺も初めてだよ。もうちょっと若けりゃ大歓迎なんだが、婆さんばっかでその気も起こんねぇ」
当時の女性は20歳を待たずに子を産むことが多かったので、40代ともなれば孫が生まれて「婆さん」と呼ばれるのが普通だった。
「何しに来たんだ?」
「息子たちが心配だったんだとよ。……さすがにスパイってことはねぇだろ。ビロウムは別に国境に近い街じゃないし、ハワードの嫁さんのタミーと、ヘンリーの姉貴のカレンを除けば婆さんだけだったし、誰が誰の母親かはっきりしてたし、会ったのは下っ端の軍人ばっかりだ。問題の起こりようがない」
「ふーん、そうか。みんな喜んでたか?」
「ビロウムの人間じゃない連中まで喜んでたよ。まあ、なかなかないことだからな」
マイクロフトとスタンリーが諜報部からの手紙を読むために早々に宴会から引き上げてしまったので、旅の土産話をするのはメアリーと私の役目になった。
とは言え、話のタネがそれほど多くない上に、教皇との会談は大半が外交機密の扱いだったので、話は自然とリヴィウスについての愚痴になった。