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一通り新参との模擬戦が終わると、ニコラスはこれ見よがしに大きなあくびをした。
それを横目に、マイクロフトが言った。
「君たちは今のところ全く使い物にならないが、もし君たちが我々の教練を受け、今の境遇から這い上がるために全力を尽くすなら、歴史に名を刻むに値する英雄になれるはずだ」
新参たちは揃って叩き伏せられた後だったため、神妙な顔でそれを聞いた。
だが、当時のマイクロフトは小隊長を任されたばかりで、まだ芝居にも教練の指揮にも慣れておらず、上官から教わった言い回しをそのまま繰り返しているのは明らかだった。
その日はそれ以上の教練は行われなかった。
連絡事項として、翌日は他の小隊と合流してジェンキンス隊の入隊式が行われる旨が伝えられた。
単に儀礼的なものではなく、王国軍への忠誠を誓う重要な催し物とのことだった(しかし、私は単に儀礼的なものだと理解した)。
予想はしていたが、わざわざ前日に集まって新人の腕試しをしたのはマイクロフト小隊だけだったらしい。
よっぽど素行の悪い連中が集まったのだろうか。
私たち新参は、荷物がなければ30人ほどが雑魚寝できそうな広い部屋に案内され、重かった甲冑を脱いだ。
荷物があるので窮屈になるのはどうしようもなかった。
体を動かしたばかりで興奮が冷めやらぬ同僚たちは、先刻の女戦士のことを噂し合った。
このときはまだ誰も彼女の名前を知らなかった。
「なあ、あの女輪姦さないか?」
話の流れで誰かがそんなことを言った。
クスクスと笑いが起こった。
私は自分の肉親が辱められた経験があるので、そういう話は冗談でも笑えなかった。
同僚たちは
「でも、あいつ、なかなかやるぜ」
「なあに、しょせんは女だ、何人かで掛かればどうにでもなるだろうよ」
「女相手にビビってられるか」
などと下品に笑いながら話を進めていた。
これがどこまで本気なのかは分からなかったが、本気であっても何もおかしくはなかった。
普通、貴族の人間はそれなりの庇護を受けているはずで、辱めればただでは済まないのだが、同僚たちはその辺りの分別もついていないようだった。
もしかすると、彼らはメアリーが貴族の生まれとは気づかなかったのかもしれないし、気づいてはいたが後々の制裁には思い至らなかったのかもしれない。
それくらい考えなしでなければ、女を犯そうなどとは考えない。
その後も、メアリーについての男どもの話は尽きなかった。
下品なだけで中味がないので、ここには書かない。