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聖職者と付き人たちのために新たに2頭立て馬車3台が用意され、10人の騎士がそれぞれ自身の馬に乗った。
そのせいで、毎晩の私たちの馬の世話はさらに重労働になった。
彼ら彼女らが同行するようになっても、ガルモンド侯爵は晩酌をやめなかった。
だが、聖職者たちが酒を飲まず、控えめに食事をしてすぐに宿の部屋に引っ込んでしまう上に、護衛の騎士たち10人が物々しい警戒態勢を敷いたので、私たちは水を差された気分だった。
多くの貴族は信仰心が篤い(という建前がある)ので、食事で顔を合わせるたびに聖職者たちと楽しげに語り合っていた。
だが、聖職者たちと最も打ち解けたのは貴族連中ではなくリジーだった。
それというのも、聖職者たちが「悪魔」だったリヴィウスよりも「聖女」であるリジーに対して強く関心を持ち、一方でリジーも聖職者たちに興味津々だったからだ。
彼ら彼女らは、リジーがイルハンスに滞在した1週間で耳にした説法や、聖書に出てくる物語の解釈、神の恩寵と人間の自由意志との関係など、神学の話題で盛り上がることが多かった。
この談話は私にとっても2つの新たな発見があった。
ひとつは、リジーが意外と聖書の物語を知らなかったということだ。
これはきっと、彼女が幼い頃に故郷のタシケントを追われたせいだろう。
もうひとつの発見は、ガレット嬢が女性であるにもかかわらず助祭になれた理由に関するものだった。
聖職者とはみんな聖書の内容に詳しいものだが、ガレット嬢はまるで聖書の隅々まで暗記しているかのように、さらにその部分の解釈について古今東西の議論を知り尽くしているかのように、訊かれればどんなことについても具体的な論拠を挙げて答えてみせた。
時には神学の話題ではなく、リジーがガレット嬢に女の子らしい話を振ることもあった。
「髪の毛のケアって何やってる?」
「今日の香水いいね、どこで手に入れたの?」
といった話題だ。
こうなると、ついていけるのはメアリーとアニーくらいになった。
アニーは化粧やアクセサリーの話が好きらしく、話が神学に移らないよう露骨に気を回していた。
リジーは最初からガレット嬢を「ローラ」と呼んでいた。
ガレット嬢はリジーに負けず劣らず真面目な性格で、当初は「聖女」リジーに畏まっていたが、リジー本人の勧めで、間もなく彼女を「エリザベス」ではなく「リジー」と呼ぶようになり、やがて同年代らしく打ち解けた口調で話すようになった。