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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第8章 プライモア
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8-9

 私たちはルンデンに戻る前に、約3週間ぶりに王都に寄って、リヴィウスを国王と宰相に挨拶させた。

 2月18日のことだった。

 挨拶は儀礼的なもので終わるだろうと誰もが予想していたが、私たちの旅は最後にもうひとつ波乱を見せた。


 国王と宰相への挨拶を終えてガルモンド侯爵たちが謁見の間から出てきたとき、彼らとリジーに続いて、祭服の男8人と、祭服の女2人、ピカピカに磨き上げられた甲冑の騎士10人がぞろぞろと現れた。

 私たちはとりあえず敬礼した。

 世間的に彼ら彼女らは「えらい人」に違いなかったからだ。


 メシア教の司祭は男がなるものであって女はなれないから、祭服の女はそれだけで異様だった。

 しかも、2人とも10代後半に見えた。

 その内のひとりがことさらに私の目を引いた。

 服に隠れて首から上しか見えなかったが、ほんのりと桃色でキメの細かい肌、夜明けの空のように澄んだブルーの目、ほっそりとして慎ましい形の鼻、薔薇の蕾のような唇、夜の川面のように流れる黒髪、それら全てを合わせたバランスも完璧だった。

 彼女はこの世の人間ではなく天上の存在なのだと誰かに言われれば、思わず頷いてしまうような美しさだった。

 彼女は年齢の割に非常に聡明そうで、都会的で垢抜けた顔つきをしていた。

 身長はアニーと同じくらいで、これは当時の女性の標準に近かった。


 祭服の男のひとりが深い低音の声で言った。

「お初にお目にかかります。私はウーヘン教会の司祭でアンドレアスと申します。本日は皆さんにお会いできて大変光栄に思っております。これも偉大なる主のお導きによるもので――」

 そんなことはどうでもいい、と私が思ったことは言うまでもない。

 アンドレアス司祭は冗長な御託(ごたく)を並べてから同僚3人を紹介し、その後にようやく、私がずっと気になっていた美女を紹介した。

「彼女はカールストン教会の助祭、ローラ・ガレット嬢です。メシア教会は原則として女性が聖職に就くことを認めていないのですが、ガレット嬢は特例で助祭に任命されました」

 続いて、護衛の騎士10人が紹介された。

 それが終わってから、アンドレアス司祭が再び口を開いた。

「この度、教会の関係者で戦線を視察することになり、私たちが皆様とご一緒させていただくことになりました。皆様、どうかよろしくお願いいたします」


 妙なことになったな、と私は思った。

 既に教会のトップである教皇がリジーの力を目の当たりにし、彼女を聖女と認めている。

 それに、リジーの力を疑っているなら、わざわざ軍を視察しなくても彼女にその場で実演させればよいだけの話だ。

 しかも、付き人と護衛を除くと視察する人間が5人しかいないのだから、視察団というには小規模すぎる。

 この視察は一体何が目的なのだろう、と私は訝しんだ。


 後に知ったが、今回の教会による視察の対象はリジーでも我が王国軍でもなく、ニコラスとリヴィウスだった。

 教会はその教義から、基本的には半神の力を悪魔に由来するものと見ており、リジーを「正統なメシア教徒」と認めたことは、教皇の独断専行による特別な措置だった。

 そのため、メシア教会としてダームガルス帝国軍ではなくウベルギラス王国軍を支持すると表明する前に、ニコラスとリヴィウスがリジーと共に「正統なメシア教徒」に列せられるべきか、教会の方で判断する必要があったらしい。

 視察団としては人数が少なかったのは、この視察が急遽決まったからだったようだ。

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