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「ちょっと待ってよ」
メアリーに続いて、リジーが(口語で)待ったをかけた。
そして、マイクロフトとリヴィウスの2人のやり取りをスタンリーに翻訳してもらってから、言った。
「もしかして、今、ニコラスとあたしでこの子の面倒を見ることになった?」
リヴィウスが「この子」と呼ばれる年齢なのかは微妙なところだった。
当時はどの国でも「大人」と「子ども」の境界がはっきりしていなかった。
人口的に圧倒的多数を占める農民は、子どもの頃から大人に混じって労働をし、13歳以上になると親たちが決めた相手と結婚をするのが普通だった(私は不良だったのでその「普通」の枠から外れていた)。
貴族の嫡男は早ければ13~15歳で爵位をもらうことがあり、爵位の授与式が「大人」になるための儀式だったと言える。
ただ、一人前に領地を治められるのはもう少し年齢を重ねてからだと考えられていた。
いずれにしても、町村単位ならともかく王国全体で見れば、何歳になれば一人前、という年齢が明確に決められていた訳ではない。
「頼めるか、リジー」
マイクロフトがそう答えると、リジーが珍しく渋い顔をして、リヴィウスを見た。
リヴィウスは苦い顔で応じた。
リジーがリヴィウスからマイクロフトに視線を戻してから言った。
「この子が何かしでかしたら、あたしの責任になるんでしょ?」
「リヴィウス殿下はもう子どもではない。ご自身の言動が引き起こす物事の責任は、ご自身でお取りになるはずだ」
「責任を取るって、どうなさるおつもりですの?」
メアリーが(口語で)リヴィウスを詰問した。
「悪意なく暴言を吐くのに、その都度取り消せばその罪が消えるとでも? 誰かれ構わず雷を放っておいて、自分では治癒魔法を使えないのに、医者に治療を任せればそれで責務を果たしたことになるとでも?」
メアリーの言うことは一理あると私は思った。
だが、一方で、ダームガルスの半神たちに対抗するためにはリヴィウスの力が必要というのがマイクロフトの一貫した立場だから、この論点でそれを覆すのは無理だろうとも思った。
案の定、マイクロフトもそれを繰り返した。
リジーがため息を吐いた。
「分かった。ニコラスとあたしで、できることをするよ」