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「アドラー嬢、あなたがおっしゃることも分かります」
マイクロフトの言い草は、全く分かっていなさそうだった。
この2人はプライモアに来ても相性が悪いな、と私は思った。
「しかし、先ほども申し上げたように、リヴィウス殿下に悪意はなかったのです。ヴィンセントとあなたのことも、幸いにしてリジーのおかげで大事には至っていません。そして、近い将来ダームガルスの半神たちとの戦闘が予想される現状において、私たちは殿下の力を必要としています。殿下にはぜひお越しいただかなければならないのです」
「じゃあ、この方が誰かれ構わず雷を放ったらどう致しますの? この方を止められるのはリジーとハーディングさんくらいじゃなくって?」
「そのことなんですが、リヴィウス殿下」
マイクロフトが、おとなしく話を聞いていたリヴィウスを振り返り、神聖語で言った。
しおらしい態度のリヴィウスはことさらに幼く見えた。
「公爵閣下とも相談いたしまして、殿下にはもちろん西部防衛軍の作戦会議にもご出席していただきますが、それ以外の時間は私たちマイクロフト小隊と行動を共にしていただきたいと考えています。
最前線で戦う部隊ですから、殿下の力をいかんなく発揮できるでしょう。
それに、失礼を承知で申し上げますと、殿下に常識感覚を身に着けていただく機会にもなると思います」
リヴィウスを最前線に送るというのはマイクロフトが最初から計画していたことだ。
それに、リヴィウスがこのようなじゃじゃ馬であり、彼を御せるのが半神としての治癒力を持つ者だけだと判明したとなると、彼をマイクロフト小隊に入れてニコラスに面倒を見させる必要がある。
もちろんニコラスは教育係としてあてにならないないが、リジーが医療担当のバーバル小隊所属という扱いである以上、他に手がなかった。
プライモア公爵が息子を危険な目に合わせるのを承諾し、それを積極的に後押ししたのは、我が軍がリヴィウスの力を必要としているというマイクロフトの話に納得したのかもしれない。
あるいは、あわよくば「悪魔」を厄介払いするつもりだったのかもしれない。
だが、それは分からないし、私には関係のないことだ。
「分かった。正式な返答は父上に確認してからになるが、父上がそれをお望みなら、私が拒否できる道理ではない」
リヴィウスは先ほどまでと比べるとかなりおとなしい口調で、マイクロフトにそう答えた。