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「なんてことするの!」
リジーが急いでメアリーの肩に触れ、怒りに震えながら言った。
「よく鳴く××だな。俺の力が怖くて震えてるくせに」
リヴィウスはリジーの体の震えを大げさに真似て、甲高い声で「『なんてことするの!』」と言い、ひとりで大笑いした。
リジーはメアリーに手を貸して一緒に立ち上がりながら言った。
「あんた、何がそんなにおかしいの?」
「まあまあ、一旦落ち着いてくれ、リジー、アニー、――」
マイクロフトが(口語で)割って入ろうとしたが、リヴィウスは無視した。
「貴様みたいな××には説明しなきゃ分かんないかな?」
リヴィウスは神聖語でそう言ってから、口語で続けた。
「この俺に説教を垂れようとした××が、俺の力を目の当たりにして地面を這いつくばる、そして自分の身の程知らずな言動の罪深さを思い知る。その馬鹿さ加減が滑稽なんだよ」
「むやみやたらと人を傷つけるのはいけないことなんだよ」
リジーはあくまでも真っすぐに言った。
「それは身分も性別も関係ない。そんなことも分からないのに、あんたは自分が偉い人間だと思ってるの?」
「思ってるとも! 貴様は考えたことがないのか、なぜ貴様らが××に生まれて、俺が誉れ高き公爵家に生まれついた? そして、なぜ俺には人を屈服させる力が宿っている? この世界の全ての物事には意味がある。そして、俺は二重の意味で特別に生まれついた。それは俺の魂が誰よりも高貴だからだ!」
「下品な言葉で人を貶めた挙句、半神の力で無理やり人に頭を下げさせるような人が、高貴なはずない。あんたが高貴だって言うなら、どうしてあんたは人から睨まれてばかりなの? どうして仲間外れにされてばかりなの?」
「貴様のように下種の言葉しか解さない××には俺がいかに高貴であるか分からないからだ」
「独りよがりの高貴さなんて傲慢でしかない」
「うるさいぞ、××! 俺をこんなふうに生まれつかせた神が間違っているとでも言うのか?」
「神様の御心を分かった気になって自分を顧みないなんて傲慢だって、誰もあんたに教えてくれなかったの?」
リヴィウスがリジーに向かって右腕を突き出した。彼の手から飛び出した稲妻がまっすぐにリジーの顔面を直撃した。
だが、彼女は動じなかった。
どうやら、水属性の半神としての治癒力が、火属性の半神の雷を無効化したようだ。
リヴィウスは見るからに狼狽した。
「あんたが自分の力に酔ってそんなことを言うんなら、あたしの力があんたの力を上回った今、酔いから醒めてくれるんだろうね?」
リヴィウスはもう一度手から雷を放ってリジーにぶつけたが、やはり何の効果もなかった。
「どうして効かない!?」
「さあね。あたしがあんたより『高貴』だからじゃないの?」
リヴィウスが3度目の雷を放ったが、リジーは全く意に介さず、彼に詰め寄った。
「さあ、あんたが侮辱し、傷つけたみんなに謝りなさい」
「調子に乗るな、××!」
リヴィウスがリジーに殴りかかったが、彼女は手で彼の拳を払いのけ、彼の右肩を掴んだ。
「貴様、何者なんだ?」
「そんなこと、あんたには関係ない」
リジーはリヴィウスに殴り返さなかった。
言いたいことを全て言った後は、彼をじっと見つめるだけだった。
それでも、リヴィウスは観念して言った。
「分かった、謝る。俺が悪かった」