表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダームガルス戦記  作者: あじさい
第8章 プライモア
101/146

8-3

 アニーの悲鳴を聞きつけたらしく、4人の衛兵が部屋に入ってきた。

「どうしました?」

 衛兵たちが、倒れているヴィンセントを見て、リヴィウスに目を移した。

「坊ちゃん!」

 衛兵のひとりが(とが)めるように叫んだ。

 リヴィウスはせせら笑うように口語で言った。

「なに、ちょっとしたミスだ。こいつを医者のところに運んでやれ」

 スタンリーと私がヴィンセントに肩を貸して立たせた。

 アニーが「大丈夫?」と声をかけると、ヴィンセントは「大丈夫だ」と返した。

「栄養のあるもの食って××して寝てれば治るだろう」

 リヴィウスが言った。言うまでもないが、反省の色は見えなかった。


「待て、リジーの力を借りよう」

 スタンリーが私に(口語で)そう囁いたとき、ちょうどリジーが駆けつけた。

 彼女もアニーの悲鳴を聞きつけたのだろう。

 後ろにはマイクロフトもいた。

「あなた、弟に何をしたの!?」

 リジーによるヴィンセントの治療も待たず、アニーがリヴィウスに抗議した。

 リジーは状況が掴めていない様子だったが、何も訊かずにヴィンセントの肩に触れて治癒魔法を施した。

 リヴィウスはリジーの治癒魔法には気付かないようで、アニーしか見ていなかった。

「聞いてなかったのか、さすがは無能な××だな。ちょっとしたミス――」


「待ちなさい!」

 リヴィウスの言葉を遮ってリジーが大声を出したので、元気になったヴィンセント、スタンリー、私の3人は飛び上がった。

 どうやら、今回リヴィウスが発した暴言は、初心なリジーでも意味を理解できるものだったらしい。

 リジーは普段は温厚な丸顔を怒りで歪めながら、ずんずんとリヴィウスのところに歩いて行った。

「今の言葉、取り消しなさい」

 単純な表情や声音で言えばハリントンのチンピラの方が凄みを利かせていたはずだが、普段のリジーを知っている私は、チンピラよりはるかに触れがたいものを感じた。

 だが、リヴィウスは普段の彼女を知らないので、へらへらと笑っていた。

「何だ、芋女? 俺たちの話を邪魔するとはいい度胸だな。その愚鈍そうな顔に、(なま)りの強い下種(げす)の言葉……、貴様、さては××だろ」

 リヴィウスが神聖語でまくし立てた。

「下種の言葉」とは平民が使う口語のことである。

「さては××だろ」という発言はひどく差別的で、リジーを知る私たち皆にとって聞き捨てならなかった。


 メアリーがリヴィウスに走り寄ろうとしたが、彼の右手から稲妻が飛び出した。

 強烈な光が部屋を真っ白に照らし、雲から雷が落ちたときのようにバチバチという大きな音が響いた。

 稲妻はメアリーの左肩を直撃した。

 彼女は走り込んだ勢いのまま崩れ落ちるように倒れた。

「メアリー!」

 リジーがメアリーに駆け寄った。

 メアリーは自力で立ち上がろうと試みながら、怒りと悔しさに歪んだ顔でリヴィウスを睨んだ。

 リヴィウスはそんな彼女を鼻で笑った。

「いいざまだな。××の分際で俺に手を挙げようとしたからだ。ミミズみたいに床を這いつくばって反省しろ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ