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きっかけというものはいつも些細なものだった

作者: 淳一




 人間の罠に引っかかって身動きが取れないでいた私を助けたのは、私を罠にはめたのと同じ人間であった。罠を外してくれた人間は子どもで、ばっと私が罠から抜けて駆けていくと驚いたようにひっくり返っていた。その姿がかわいらしかったのと、私を罠から助けてくれたことが、私がその人間を追うきっかけになった。


 その人間は村の、それなりに大きな家に住んでいた。人間に見つかると何をされるかわからないので、私は姿を隠しながら、時に人に化けながら(・・・・・・・)その人間を追いかけた。それが、人間の言うところの「恋」であることに気付いたのは、もっとずっと後の話だった。


 ある日、その人間が山に入った。山道を抜けて隣村へ行くらしい。その日も、私はやはりこっそりとその人間を追いかけた。私のような生き物に好かれるなど、普通の人間にとっては厄介極まりないのだが、その人間にとっては逆に幸いに働いたらしい。途中、雨が降り始め、急ぎ足になったその人間は、足を踏み外してけものみちへと落ちてしまった。私が慌てて落ちた先に向かえば、人間は足を怪我していた。


 この姿では何もできないと思った私は、躊躇いもなく人間の女に化けた。思えば、自分が雌だからと女を選んだのだが、このとき人間の男に化けていれば、そのときだけの関係で終わったのだろう。「大丈夫ですか?」と問う私に警戒心を抱いているのはわかったが、かといって何かができるわけでもなく、男は差し出した私の手を取った。


 雨は次第に強くなった。私はこれを凌げる家を持たない。致し方なく僅かでも雨を凌げる大木のふもとで休むことにした。


 幸いにも人間の怪我は思っていたほど深くはなく、歩けないほどではなかった。雨が止んだら、再び隣村に向かうのだと言う。


 そんな人間が私の素性を聞いてくるたび、私は誤魔化すように言葉を探った。困ったことに、あの山道は、この人間が住んでいる村と、この人間が向かっている村を繋ぐ道。どちらの村も大した大きさではないものだから、人間たちはみな互いの顔を覚えている。数度、人に化けて村に入り込んだとき、何度「どこの人だい?」と聞かれたことか。


 やがて雨が止むと、その人間は「ひどい目にあった」と濡れた髪を掻き上げながら笑った。笑って私を振り返った。


「ありがとう。今度は罠にかからないようにな」


 そう言って茂みを分けながら進む後ろ姿を、正体を見破られていた私は、呆然と見送るしかなかった。





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