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3-11

 その日の晩から警戒を厳重に行った。襲撃する側となるのは冒険者ギルドの職員なのだから、俺達のだいたいの実力を把握しているだろう。そこらの野党やモンスターとは比べ物にならないレベルの襲撃班を差し向けられる可能性が高い、と見たのだ。


 結局、夜間は何も起きなかった。日中に襲撃があるとすれば、やはりトルルさんの言っていた、人通りの少ないルートに入ってからだろうか。あるいはそう思わせておいて、直前や直後の気が緩みそうなタイミングを狙って現れるのかもしれない。いやー、来ることが分かっていると、逆に普段通りにできないな……前世での避難訓練当日みたいな、そわそわした気分になってしまうよ。


 頭の中は浮ついた状態でも、スキルはきっちり仕事をしてくれている。街道から逸れた道も中頃に差し掛かった辺りで、気配を感じた。距離にして2キロ近く先だ。襲撃犯は二手に別れ、道を封鎖するように挟撃の形をとるつもりらしい。片方のグループが、ゆっくりと弧を描くように迂回し、俺達の背後に周り込んでいるのが分かる。数は10名、正面に残ったのは13名だ。


 迂回しているグループの気配が、突然読み辛くなった。どうやら”隠密”スキルを使い始めたようだな。この距離ならスキルを使われても見失うようなことは無いのだが、ぼんやりとしか分からなくなる。さて、襲撃を感知したので仲間に合図を送る。


「フィー、済まないが"靴紐が解けた"。”結び”直すから先に行っていてくれ。"すぐに"追いつく。」


 俺達のパーティー全員がピクリと反応をした。どうやら伝わったようだ。今の発言には、幾つか事前に決めていた符丁が織り込まれている。これは襲撃が『挟撃により、25名以下の規模、30分以内に』発生するという合図だ。

 なぜ、こんな回りくどいことをするのかというと、前回、俺が敵の接近を告げた段階で試験が終了したからだ。ギルド側が試験を中断した正確な理由は分からないが、タイミングから見て、俺があまりにも早く発見してしまった、というのも要因のひとつじゃないかと思う。なので、あまり早くに発見を知らせると、今回も中止されてしまう可能性がある、と考えた。……ちょっと考え過ぎかもしれないが、更なる裏試験となる可能性は潰しておくことにしたのだ。


 じわじわと包囲網が狭まってくる。この距離まで近づくと”隠密”スキルを使われてもはっきりと分かる。ガチャでこの前引いたので、俺の”気配察知”は現在Lv8だ。この分野ではそうそう遅れをとることは無いだろう。勿論、目視での警戒も怠らない。あと10分程度で接触、というタイミングで、俺は剣の鞘をタンタンっと2回叩いた。

 さらに5分ほど経過したところで、フィーがトルルさんに呼びかける。


「おそらく盗賊による襲撃があります。馬車を止めてもらえますか?」


「え!?」


 慌てた様子で馬車を止めるトルルさん。


「本当ですか?」


「はい、ですがご安心を。しっかりと護衛させていただきます。シンク、状況は?」


「後方に回り込んだ者が10名。正面に13名ってところかな。」


 そう説明しながら、俺は印術による詠唱を行っている。


「では、後方は私がまとめて処理するのです。」


 ノーネットが詠唱を始めた。今回の作戦は、ポロルちゃんに対するアピールも含まれている。そのため、メインで戦うのは俺、ルイス、ノーネットだ。ルイスはできるだけ剣で戦いたいというので、俺とノーネットで実力者を排除する予定だ。


 フィー、カッツェ、マリユスが馬車を守り、俺とルイスが正面、ノーネットが後方、という布陣でその場に待機する。


 数分後、森の中から道をふさぐようにして、盗賊達が姿を現した。正面の真ん中、馬鹿みたいにでかい大剣を持った大男が、見た目通りのでかい声を張り上げた。


「俺達は盗賊団”ハゲタカ”だ! 無駄な抵抗はやめるこったなぁ! そうすれば命だけは助けてやるぞ……女は、だがな。ガハハハッ!」


 大男の言葉に、下品な笑いを浮かべる一同。いやぁ、いかにもな盗賊団だが、ギルド職員が演じているにしてはめちゃめちゃ雰囲気出ているなぁ。衣装や小道具も年季が入って見える。役者でも雇ったのか?


「盗賊団”ハゲタカ”! 何故、こんな場所に!」


 トルルさんが驚いた様子で声を上げる。


「トルルさん、奴等を知っているんですか?」


 フィーの質問にトルルさんが答えた。


「ギョンダー近くで暴れていた盗賊団です。頭目の、巨剣使いのマラートは天級の実力者だとか。」


 へぇぇ、そういう設定なのね。トルルさんも話を合わせているところを見ると、この一家もギルド職員か、そうでなければ協力を要請されている一般人ってことで間違い無さそうだな。見たところ、あのやたらでかい大剣を持った大男がマラートって奴なんだろう。しかも天級か! 冒険者ギルドもやる気満々だな!


「ここは危険ですので、馬車に入っていてください。」


 フィーはそう告げて、御者台にいたトルルさんとパッソさんを馬車に押し込んだ。

 さて、せっかくの演出ではあるが……天級相手に多勢に無勢で渡り合うとなると、万が一も有り得るからな。さくっと先制攻撃させてもらおう。俺がそう思った矢先、ノーネットが力強く叫び、魔力を解き放った。


天級(アブソリュート)・ウォーターバレット!」


 空中に現れた数十の水弾が、馬車の後方に迫っていた盗賊団に襲いかかる! 

 どうやらノーネットは”広域化”を使ったようで、本来なら数発であろう水弾を、数十発に増やしたようだ。その分、一発ずつの威力は落ちている筈だが、天級の術だけあって水弾ひとつの直径は1mほどもある。それだけの質量にスピードが加われば、衝撃は体の芯に伝わり、ごっそりと体力を奪っていく。そんなのを1人あたり5、6発は食らっているようだから、タコ殴りもいいところである。後方にいた敵は、瞬く間に全員行動不能となったのだった。


 ドヤ顔で振り向いたノーネット。しかし、一番見せたい相手だったポロルちゃんは馬車の中だ。ノーネットは「あ、あれ?」って呟いて固まってしまった。

 さて、こちらも負けてはいられない。ポロルちゃんに見てもらえないのは残念だが、『護衛をちゃんとできる』という結果があれば十分だろう。俺は印術で詠唱していた魔術を放った。


「”スリープ”」


 この魔術は”広域化”に”状態異常強化””魔力圧縮”と、これでもかと範囲と威力を増幅している。これをマラートを中心とした辺りに展開した。


「ぁふん」


 気の抜けるような声を上げたマラートと周辺にいた盗賊、合わせて5名を瞬時に眠らせることができた。

 あっという間に盗賊団15名が戦闘不能となった事態に、流石に残りの盗賊達も浮足立ち、逃げるべきなのか攻めるべきなのか判断ついていないようだ。中にはマラートを起こそうと駆け寄り、ゆすっているものもいるが、ここまで強化した術だ。多少揺すったくらいでは目を覚まさないだろう。


 次はルイスの番……と見ると、剣を構え、守りに入っていた。スキルが生えていない状態で攻め込むのは危ない、という判断なのだろう。いやもう精霊術で攻撃しちゃえば? とも思うが、どうにか剣での実績が欲しいようだ。まぁ、それがきっかけでスキルが手に入る、なんてこともあるかもしれないしな。


 混乱気味の盗賊団を前に、そろそろこちらから仕掛けようかと考えた、その時。馬車の中からポロルちゃんの悲鳴が聞こえた。な、何事?


「オラぁ! 護衛連中、動くな! この娘がどうなってもいいのか!」


 そう叫んで現れたのはパッソさんで、何と、拘束したポロルちゃんの首筋にナイフを当てていた。おぉ!? 内部に賊が紛れ込んでいたパターンの演出か! そうか確かにそのパターンも有り得るよな。いやぁ芸が細かいな!


 ■パッソ視点


 何がどうなっていやがる! いつの間にか馬車の後ろを抑えていた連中が全滅しているし、御頭も倒れているじゃねぇか! ちょっと馬車に入っている間に何が起きた!?

 確かに後方から何かデカい音は聞こえた。背の小さい娘は魔術師のような恰好をしていたから、奴の魔術だろうと察しはつく。しかし……だ。地級上がりたての魔術師が、10人もの人間を一度に倒せるとは思えねぇ。あの中には地級の実力者が2人もいたんだぞ!


 それに何より御頭はどうしちまったっていうんだ! あの強ェ御頭がやられるなんて……よくよく見ると眠っているようだ。そうか、護衛に”暗黒術”の使い手がいやがったか!


「御頭にかけた術を解きやがれ! さっさとしねぇとこの娘の指を切り落とすぞ!」


「ひ、ひぃぃ!」


 ポロルのガキが引きつったような悲鳴を上げる。どいつだ! どいつが暗黒術の使い手だ?

 馬車を守っていたフィーという金髪の女が、剣を構えながら近づいてくる。


「近寄るんじゃねぇ! こいつがどうなってもいいのか!?」


 そう叫んでポロルのガキにナイフを当てるが、フィーは構わず近づいてくる。


「ごめんなさいね、ポロルちゃん。こういう場合、脅迫に屈するわけにはいかないの。テロリストとは交渉せず、ってね。国際常識なのよね。」


 困った表情こそ浮かべているが、全然お構いなしに近づいてくる。な、何考えてやがんだ、こいつは!!


「フィーさん! ど、どうか娘を助けてやってください! お願いします!」


 馬車から身を出したトルルの奴が、必死にフィーに哀願する。そうだ! もっと言ってやってくれ!


「ですが、この手の要求に従えば、結局皆殺しになってしまいます。従うわけには、ちょっと……。」


 いや、トルルはお前らの依頼者だろ!? その娘が人質なんだぞ、頭おかしいんじゃないのか!? ほら、見ろ! ポロルのガキも『信じられない』って顔してるじゃねぇか! 可哀想だとは思わねぇのか! 

 どうする……どうすればいい? ふと視界の端に、オロオロしている眼鏡のガキの姿が映った。そうだ、このいかれた女も、自分の仲間が人質となれば流石に要求に従うだろう。あのガキは弱いから簡単に抑え込める! そう思った俺はポロルのガキをフィーに投げつけ、その隙に一足飛びで眼鏡のガキに近づいた。


「え!」


 驚いている眼鏡のガキの剣を足で蹴り飛ばし、よろめいたところを押さえ込んで首筋にナイフを当てる。


「オラぁ! お前らの仲間の命がどうなってもいいのか!」


 これで、何とかなる! そう確信した俺に、眼鏡のガキが小さな声で言った。


「えっと、痛いかもですけど、ごめんね?」


 指先がわずかに動き、俺の身体に触れたと感じた次の瞬間、バチバチバチバチと大きな音とともに俺の身体の中を衝撃が駆け巡り、意識が遠のいていった。


 ■シンク視点


 ルイスぅ、油断し過ぎだろ! 急展開についていけなかったのはまぁ仕方ないとしても、剣に纏わせていた雷も解いてしまうのはいただけない。ほら~、簡単に組み付かれちゃったじゃん。もしパッソさんがルイスを殺す気だったら、今ので確実にやられていたぞ? まぁ殺気は感じられなかったから俺も放置したんだけどさ。後で説教だな。


 パッソさんがルイスの新技で意識を失ったので、戦局は決した。残り8名は難無くルイスの雷で無力化し、盗賊団全員を縛り上げた。

 さて、この試験はいつになったら判定が下るんだろう? あ、パッソさんやマラートが判定するんだったら、回復させるなり術を解くなりしないといけないかな……そんなことを考えていると、マリユスが俺に近づいてきて、こう言った。


『シンク。先ほど頭目が名乗りを上げた時に、”嘘看破”で調べたのだが、嘘がなかった。』


「ん? え、それって、つまり……?」


 食べる手を止めたマリユスが、困ったように眉根を寄せる。


『非常に言い辛いのだが、こいつらは本物の盗賊団のようだ。』


 ……な、何だって~!!??

嘘看破は結構取得している人が多いです。まぁちょっと慎重な人間なら対人関係において相手に嘘が無いか警戒することになるので自然と取得することが出来るというわけです。


お読みくださりありがとうございます。

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