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3-8

 ■シンク視点


 護衛講習も無事に終えたことで、いよいよモイミールからの移動に向けた準備をする運びとなった。


「そういえばフィー様、護衛依頼の時に『フィーリア隊』って名乗っていた。」


「あぁ! 騎士学校での癖が出ちゃった。」


 カッツェの指摘にフィーが頭を抱えた。何でも、フィーリア隊という呼称は騎士学校時代の隊の名前らしい。隊長の名がそのまま隊の名前になるそうだ。

 ちなみにフィー達が登録し、現在は俺達も共に名乗ることになったパーティ名だが、”暁の空”という。とーちゃん達のパーティ”暁”のパクりである……いや、この場合はインスパイアというべきか。


「シンクたちの考えた名前は本当に素晴らしいんだけど、改名するには解散しないといけないから、使えないのよね。残念だわ。」


「豪胆かつ快活で、実にかっこいいんだがな。」


「英知と深謀を結実させた文字の並びに、非凡な才を感じるのです。仕方ないこととはいえ、これを使えないのは無念ですね。」


 俺達がつけようと思っていたパーティ名について、フィー達も惜しんでくれた。いやー、返す返すも本当に残念なのだが、世の中にはタイミングというものがある。これもまたそういうものだった、と諦めるしかないだろう。無理して変えないほうが結果として正解だった、ということだってあるかもしれない。

 さて、移動に際して、貼り出されている護衛依頼を改めて確認する。ギョンダーを目標に、かつ俺達6名が安全に護衛していくには、南の方角へ向かう、6人未満の依頼者が望ましい。

 そう考えつつ依頼票を眺めてみたが、パッと見では条件に合うものが見当たらなかった。するとマリユスが、かなり高い位置に張られていた依頼票から条件に合ったものを剥がし、見せてくれた。……背が高いっていいな……。


「これなら良さそうだな。依頼料も適正っぽいし。」


 依頼票によると、護衛対象は4人と荷馬車1台。向かう場所も南の方向だ。料金が相場に合っているのも印象が良いな。命の値段をケチるような依頼者は碌なもんじゃなさそうだし。

 出発は3日後となっていた。全員でこの依頼を確認し、異論が出なかったのでそのまま受付へ持っていく。すると、フィーが真剣な顔をして注文をつけた。


「依頼者に、私が自由騎士であるのを隠すことはできるかしら?」


「自由騎士を隠す……ですか?」


「ええ。自由騎士と知られたら気を遣われてしまいそうだし、それに、貴族身分というだけで狙う輩もいるでしょ? 護衛者のせいで、依頼者に迷惑をかけたら大変だもの。」


 フィーは護衛講習の試験時、ミスリルのプレートアーマーについて指摘されてから色々と考えたようで、盗賊に狙われそうな要素はなるべく秘匿したほうが良い、という結論になったようだ。


「成る程、仰ることは理解しました。ですが、依頼者に隠すことはできかねます。そうですね……護衛者側の要望として『特別扱いしないように』と、ギルドから伝えることでしたら可能ですが。」


「では、それでお願い。安全のために必要な処置であることを、しっかり伝えてね。」


「かしこまりました。」


 その日の夜、依頼者の代表である男性と会うことになった。20代後半くらいの若手の商人で、名前をトルルさんというらしい。


「ギルドからの話でどういう事なのかと思っておりましたが、成る程。そういう事情でしたら、私以外の同行者には自由騎士様であることを伏せておきましょう。……ただ、粗野な口調や失礼な態度を取ることもあるかと思いますが、その点はご了承いただけますでしょうか?」


「勿論気にしません。」


 トルルさんの質問に、笑顔でフィーは答えた。


「それと、こちらが募集した人員は4名でしたので、その分しか護衛料は払えませんが……。」


「そちらも問題ありません。その代わりと言ってはなんですが、こちらは少々癖のある面子でして。まず、そこの大きな彼は、絶えず食べていないといけない体質で……。」


 うちのメンバーの事情……マリユスの体質やら、ルイスが剣の修行中であることを説明する。トルルさんは多少訝しげな様子だったものの、いざとなれば戦闘中は食べなくても問題ないこと、ルイスが精霊術を使えることを伝え、戦力的には問題ないと説明することで、理解を得られた。その後、日程、ルート、集合場所などの細かい条件を詰めて、トルルさんと別れた。

 出発まで、2日ほど余裕があるな。


「シンク。剣の練習に付き合ってくれない?」


 最近のルイスは、時間があれば俺から剣を教わろうとしてくる。剣を振ることが楽しくて仕方ないようだ。しかし、一向に上達しないし、”剣術”のスキルが生える気配もまるでない。でかくて重い剣を毎日持ち歩いているためか、”運搬”と”体力UP”のスキルを最近手に入れたようなのだが、ルイスはスキル鑑定紙を見ながら「これじゃない……」と呟いていた。



 翌日。いつもならギルドに併設されている練習場へ行くのだが、今日は思うところがあり、街の外へ来ていた。女性陣は何やら買い出しがあるようで、ここにいるのは男3人だけだ。

 マリユスに周辺警戒を頼み、俺とルイスはいつものように柔軟体操、基本型の練習、歩法や踏み込みの練習、そして約束組手……攻守のパターンを決めて打ち合いなどの基礎練習を行う。ここまでで大体2時間くらい。魔術師寄りのステータスをしているルイスは剣が重いこともあり、すでにへばっている。現在は休憩中だ。

 さて、わざわざ街の外へ出てきたのは、試したいことがあったからだ。


「ルイス、休憩しながら聞いてくれ。」


「な、何?」


 はぁはぁと息の荒いルイス。呼吸こそ荒いが、好きなことをやっているためだろう。充足感があるのか、満足気な表情をしている。


「”剣術”スキルがない状態で剣をメインに持ち歩いているのは、やはり不安がある。」


「そう、だよね……。」


 ルイスの表情は一転し、暗くなった。ははあ、さては剣を持つのを反対されると思っているな? こうなることは最初から分かっていたんだし、今更反対するくらいなら、そもそも最初から勧めたりしないのに。俺は構わず続けた。


「そこで、だ。精霊術と剣を合わせた、ルイスオリジナルの技を編み出してみようと思うのだが、どうだろう?」


「……僕オリジナルの技!?」


「そうだ! フィーたちが使った例の技を、お前も見ていただろう? まぁ、あそこまでのものは一朝一夕でどうにかなるものじゃない。しかし、ルイスには精霊術というアドバンテージがある。それに……何も『あれ』と戦うための技を今すぐ身につけようというんじゃないんだ。まずは”剣術”スキルがない状態でも、剣を持ちながら十分戦えるようにしたい。そのための技を編み出してみよう、ってことだ。」


「そんなこと、できるの?」


 期待半分、不安半分って顔をして聞いてきた。


「俺にアイデアがあるんだ。まずは試してみよう。休憩は十分取れたか? そしたら、精霊を召喚してみてくれ。」


 アイデアが、と言ったが、ここはもうゲームや漫画知識の総動員である。


「召喚したよ、シンク。」


「分かった。先に確認したいことがある。ルイス自身は、精霊の攻撃の影響を受けるのか?」


「攻撃の影響?」


「モイミールに来る前、戦闘中に俺がルイスの雷を食らったことがあっただろう。あの時に、ダメージと共に強い麻痺効果を確認できたんだ。ルイスも同じように雷を食らえば、麻痺するのかどうかを確認したい。」


「受けたことないから分からないけど、たぶん影響が……、え? 大丈夫? 影響を受けない? ……シンク、何か大丈夫みたい。」


 それを聞いて俺は思わずガッツポーズをした。


「よし! それなら……。」


 俺は技の内容をルイスと精霊に伝えた。ルイスはイマイチ分かってないみたいだが、精霊は理解してくれたようだ。


「とりあえず、やってみるね。精霊さん!」


 その言葉と共に、ルイスが剣を両手で掲げた。そこに精霊の雷が落ちる。一瞬目がくらんだが、先ほど確認した通り、ルイスにダメージは無いようだ。雷は青白い電光となって剣身にまとわりつき、明滅を繰り返しながらバチバチと大きな音を立てている。おお! これは成功じゃないか!?


「できたっぽいな。雷の魔法剣!」


 属性剣自体は火術や神聖術にもある。”ホーリーセイバー”とかがそうだ。しかし、雷属性はないし、どの属性剣もここまで派手じゃない。

 周囲の空気が帯電しているのか、髪を放射状にふわふわとなびかせるルイスが、慌てたように剣と俺を交互に見る。


「う、うん。でもこれどうしたらいいの?」


「そのまま切り掛かれば良いと思う。そうだな、そこらの木を試しに切ってみてくれ。」


「分かった。……えい!」


 ルイスが剣を近くの木に振り下ろすと、まとわりついていた雷が一気に木へと流れ込み、激しい光と音を立てながら表面を舐めていく。木は根元からあっという間に燃え上がり、みるみるうちに炭化してしまった。予想以上の威力だ。


「すごい威力だね~……でもこれ、普通に精霊術使えばいいんじゃないの?」


「ルイス……、美学だよ。カッコいいだろ?」


 俺の言葉を受けて、ルイスは首を傾げている。何だ、分からないのか? 修業が足りないぞ、ルイス!


「うーん、カッコいいのは分かるのだけど……これだとすぐ近くで雷の力が解放されるから、目がチカチカして戦い辛いよ。」


 むむむ! 至極真っ当な意見だ。確かになぁ、文句なしの派手さだが、使い辛いんじゃ意味がない。


「……分かった。カッコよさは一旦置いておいて、実用的な技について考えよう。」


「え? 一旦なの?」


「そりゃ勿論。お前だって、剣やるのはカッコいいからだろ? ならば、そこは極めないと!」


「な、成る程!」


 ルイス……チョロい、チョロ過ぎるぞ!



お読みくださりありがとうございます。

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