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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
10.赦されざるもの
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ヨハンの黙示の書

 燃える平原を見ながらゴーシェ達と騎士団員は途方に暮れていた。

 騎士団領は一種オアシスのようなもので、ここを失っては他の町(それも正規軍の支配下にないとは言い切れない)に行くより無かったからである。


「で、どうするのだ? お前たちは」


 ゲオルグが尋ねるとゴーシェは馬の後ろで怪訝そうに答えた。


「どうする? というと? オレは閉じ込められていて殆ど何も知らない、正規軍の襲撃があったこと位しかな」


「ここを出てどうするかと言っているのだ」


「失礼ながら団長殿」


 アルチュールが口を挟んだ。


「例の本はどうするのだ? 貴殿らに渡してもいいが意味はあるのか?」


「諸君らの旅の助けになろう、持っていくがよい。最初からそのつもりだ」


「ではぼくたちはそのために異形の地に踏み入ったわけですか――!?」


「その通りだダオレ殿、ではそろそろ我々は諸君らに別れを告げることにしよう」


 馬上で副長が頷いた。


「馬は呉れてやろう。諸君らは此処から正規軍の残党を避けつつ西を目指すがいい、小さな町がある」


 そう団長は西の方角を示した。


「アンタらはどうするんだ、騎士団」


 ゴーシェはもっともな質問をしたが、それにはヘクトールが騎士流の謎かけのような答えしか返さなかった。


「吾等は旧き騎士団の末裔、世俗に染まるようなことはしない。砂漠を彷徨うのみ」


「ではさらばだ、隠された公子とその一行よ!」


 そう言うと団長は馬の腹を蹴って北の方角へと、北極星目指して駆け出した。

 以下騎士団員たちもそれを追った。


 ゴーシェは何となく、彼らが地平の彼方に霞むまでそれを見ていたが、やがてこう言った。


「西か……何があるのか行ってみなければわからねえ、他に情報も無い行くしかないのか」


「じゃあ、ゴーシェの言うとおり馬は西に向ければいいのかな?」


 手綱を取っていたセシルが馬の鼻づらを西へ向けた。

 しかしすばやくそれをアルチュールが制した。


「待てセシル、馬にも乗れない公子様を指揮するのはお前ではないぞ、この私だ」


「ちょっと、馬にも乗れない。とか言うの止めましょうよ、ゴーシェはずっと砂漠の地下で生活してきて乗れないどころか馬なんて見たことないのよ!」


「オルランダさんの言うとおりですよ、彼が馬を見たのは都の馬車が初めての筈です。いきなり軍馬に乗れるわけないじゃないですか?」


「……さっきから聞いてりゃ、お前ら好き勝手言いやがって!」


 遂にゴーシェは怒りを爆発させた。


「もう西でもなんでも連れて行きやがれ!」


 そう言うとゴーシェは馬の上で不貞腐れてしまった。


 その後、一行は西へ向かっていけるだけ闇を縫って進んだ。

 途中正規軍連中が、数名居たが馬上からアルチュールやオリヴィエが始末した。

 すっかり夜中になり、もうこれ以上正規軍も追ってこない距離まで辿り着くと、一行は灌木に馬を繋ぎ火を熾した。


 オルランダとセシルは体力の無さから早々に床に就いていたが、残った男たちはこれからについて話し合うしかなく、先ずは西にあるという町に行って補給をすること、できれば装備も増強したい。

 残った問題点は騎士団から持ってきたという本であった。


「なんだこれは?」


 アルチュールが頁を捲ると美しい絵入りの古語で書かれた、本であることが判った。


「絵が描いてある、しかしこの古語は私には読めん。難し過ぎる、ゴーシェ読めるか?」


「なんでも人を便利に使うんだな」


 そう言いながらもゴーシェは本を受け取るとぱらぱらと中身を見て、その一部を読み始めた。



この後われ見しに、視よ、天に開けたる門あり。初に我に語るを聞きし喇叭のごとき聲いふ『ここに登れ、我この後おこるべき事を汝に示さん』

直ちに、われ御靈に感ぜしが、視よ、天に御座設けあり。

その御座に坐したまふ者あり、その坐し給ふものの状は碧玉・赤瑪瑙のごとく、かつ御座の周圍には緑玉のごとき虹ありき。

また御座のまはりに二十四の座位ありて、二十四人の長老、白き衣を纏ひ、首に金の冠冕(かんむり)を戴きて、その座位に坐せり。

御座より數多の電光と聲と雷霆と出づ。また御座の前に燃えたる七つの燈火あり、これ神の七つの靈なり。

御座のまへに水晶に似たる玻璃の海あり。御座の中央と御座の周圍とに四つの活物ありて、前も後も數々の目にて滿ちたり。

第一の活物は獅子のごとく、第二の活物は牛のごとく、第三の活物は面のかたち人のごとく、第四の活物は飛ぶ鷲のごとし。

この四つの活物おのおの六つの翼あり、翼の内も外も數々の目にて滿ちたり、日も夜も絶間なく言ふ、

『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、

昔いまし、今いまし、のち來りたまふ

主たる全能の神』

この活物ら御座に坐し、世々限りなく活きたまふ者に榮光と尊崇とを歸し、感謝する時、

二十四人の長老、御座に坐したまふ者のまへに伏し、世々限りなく活きたまふ者を拜し、おのれの冠冕を御座のまへに投げ出して言ふ、

『我らの主なる神よ、榮光と尊崇と能力とを

受け給ふは宜なり。汝は萬物を造りたまひ、

萬物は御意によりて存し、かつ造られたり』



「なんですそれは?」


 ダオレは不可思議な内容に思わず尋ねていた。


「表題には――『ヨハンの黙示の書』とあるな」

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