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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
8.奴隷王オベール
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要塞

 オルランダに起こされて仕方なく一行と共に歩き出したゴーシェだが、昨晩の不可思議な夢の奇妙な感覚に未だ囚われていた。

 彼女はいったい何者だろう? それを考えると怖気が立った。

 ゴーシェが初めて見た女性はオルランダだし、女と言えばあとはアーリャ・ミオナくらいしか目にしていないなのだ。

 女が恐ろしい、それはゴーシェにとって否定したい感情であった。

 いまでも仔細に思い出せる白く細い背中から漂う、なにか得体のしれないものに囚われているなど。

 では彼女が振り向いたら自分はどうなってしまうというのであろうか?

 『恐ろしい女』についての本は色々読んできてはいた、ただそれを夢とはいえ目の当たりにしようとは。


「ゴーシェ?」


 オルランダに話しかけられて、ようやくここが洞窟の中であるということに、ゴーシェは気が付いた。

 日の光の射さぬ、真っ暗な穴をペルジャーの掲げた松明一本で進んでいる。


「あ、ああ……そうだな、オルランダ」


「どうしたのゴーシェ? なんだか今朝から様子がおかしいわよ」


「なんでもない、至って平常だ」


「とてもそうとは思えないけど?」


 ゴーシェは暗闇に乗じてオルランダの手を握った。


「オレは動揺しているか?」


 動揺しているのはオルランダの方であったが、彼女はしっかりと答えた。


「ええ、とても――」


「そうか」


「なにかあったの?」


「機会があれば話す、今はこうしていてくれ」


「もう……」


 洞窟を歩いていた時間はかなり短かった。

 どうやらこれは山の中腹を人工的に繰り抜いたもので、近道をするための通路といえた。

 しかもゴーシェは考え事のせいで気づかなかったが、入り口は巧妙に叢で隠されている。

 中は上り坂なのだが暗闇のせいでそれもあまり感じさせない。


 曲がり角を曲がると突如、眩しい光が一行の眼前を覆った。

 おそらく出口の様だ。

 そして目が慣れるとペルジャー以外、目の前に広がる光景に驚愕した。

 山の上で全く気付かなかったのだが、これは山城というより要塞であった。

 ここに奴隷王が住まうというのか――


「城は城でして特に名前はありません、さあ門から入りましょう」


 城門には島の入り口と同じモットーが掲げられていた。即ちこの門をくぐるもの一切の希望を捨てよ――


 そう、ペルジャーは案内した。

 門をくぐり、さほど大きくはない城門を抜けるとそこは城のあまり大きくはない玄関であった。

 コンパクトな造りの城だがところどころ凝った装飾もなされている――というよりも、まだこの城というか要塞は建造が半ばなのではないだろうか? そう思わせた。


「こちらでお待ちください」


 一行を斥候が城の玄関である狭い広間に集めると、彼は出て行った。


「狭いようで広い、か。この城にも言える事かもしれないぞ」


 都の城を見慣れたアルチュールはこの粗末ともいえる、砦のような山城をぐるりと観察した。


「アルチュール、考え過ぎでは? 奴隷王は我々を歓待すると言っていますし」


「……いや、どうやら我々は罠にかかったようだぞ」


 そう、ミーファスが呟いたときにはもう遅かった。

 ゴーシェがいち早く気付くべきだったが、あの女の呪縛から逃れられずにいたことを彼は後悔した。


 七人は五十人近い軍勢に囲まれていた。

 ホールを埋め尽くす人数だ。

 この人数を突破するのは如何なゴーシェ達でも無理である。


「ペルジャー殿これはどういう事かな!?」


 アルチュールは声を張り上げた。


「『潜入する鼠、ゴットフリトと元ボレスキン伯一味を殺せ』そう奴隷王は仰せでした」


 ペルジャーは何の感慨もなく、そう答えた。


「騙したな……!」


 ゴーシェは怒りにまかせて叫んだが、当のペルジャーはどこ吹く風で命令を下す。


「先ずはゴットフリト公子をひっ捕らえろ! そして残った女子供は丁重にな」


 その軍勢は一斉に七人へ向かってきた。

 武器を出して応戦しようにもホールは狭く、多勢に無勢。

 あっという間にゴーシェは捕らえられ縄にかけられた。


「クソ! 放せ、なにしやがんだ!」


「ゴーシェ! うわあ、連れて行かれてしまう!」


 ダオレの声が切れ切れに聞こえたが敵軍にもみくちゃにされて、誰が何処だかまったくわからない。


「きゃあ、どこ触ってんのよ!」


「オルランダ!」


 だが残りの六人は入り口とは反対側の扉から、縛られては運び出されてを繰り返しあっという間に敵軍もろともゴーシェの視界から消えた。

 残ったのは懇ろに縛られたゴーシェとペルジャー、数人の兵のみとなった。


「おっと、これは預かっておく」


 そう言うとペルジャーはグラムを腰に吊るしていたベルトごと取り上げ、兵に渡した。


「その剣をどうするつもりだ?」


「オベール様に献上する。お前はこれから王にお目通りが叶うのだぞ? 少しは喜べ」


 ゴーシェはペルジャーの顔に唾を吐きかけた。

 同時にペルジャーの拳がゴーシェの頬に飛んだ。


「公子とは名ばかりの野蛮人め……! いずれゲヘナの業火に焼かれるがいい」 


「案内するならさっさとそのオベールの元へと連れて行くがいい、何時でも逢う準備はできているぞ?」


 口の中を切ったのかゴーシェは今度は床に血を吐き捨てた。

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