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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
7.まぼろしの海
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私掠船

「だーかーらー言ったじゃねえか、時化になるってあの餓鬼が!!」


 猛烈な揺れで櫂を操るゴーシェの手には豆ができそうだ。


「しかし、もう機会はないのだぞ!」


「喋らないでくださいアルチュール、船酔いがひどくなりますよ」


 とっくにセシルは吐いていたが。


「わたしも、もうダメぇ……」


「あああ、オルランダもしっかりして下さい」


「チッ、どいつもこいつも」


「ゴーシェは平気なんですか?」


「砂漠で舟を操っていた時こうやって湖が荒れることもあった、こんな荒れねえけどな! だからオレは大したことねえ」


 実際ゴーシェは船酔いしているというよりも、時化から来る揺れで体力を消耗しているように見えた。

 それでも歯を食いしばって櫂を操っている。

 ひたすらに、彼の赤い眸には対岸が見えるとでもいうのか――


「さ霧消ゆる湊江(みなとえ)の 舟に白し、朝の霜。

ただ水鳥の声はして いまだ覚めず、岸の家」


――ゴーシェが唄っている!?

 ダオレはここで大層驚いたのだが黙っておいた。


()()()()、大波が、

 船を木の葉のように包み込んだ。


「おい……!」


 ゴーシェは叫んだが一瞬遅かった。


 五人は船から投げ出され、荒れ狂う海へと落水した。

 ゴーシェは何とかひっくり返った船の底を掴むと四人を目で捜すが、その姿は白波に遮られてどこにも見る事ができない。


「オルランダ……!」


 だが眼前に徐々に姿を現す巨大な船影に気付いた時にはもう遅かった。


「なんだこれは!?」


 次に波が押し寄せたとき、ゴーシェの捕まっていた小舟の底はひっくり返り彼も海へと投げ出された。

 白波が派手に立つ。


 そのままゴーシェは意識を失った。



※※※



「ゴーシェ……」


 盲目のボージェスは彼に呼びかけた。


「ボージェス、ここは?」


「何処でもない、お前の家ではないか」


 ああそうだ、あの日魚を湖で(すなど)り何事もなく養父の元へと帰って来たのだ。


「お前は長い夢を視ていた」


「……長い、夢」


黄金(きん)の髪の娘に出会ったのも、伯爵領に行ったのも全て夢だ。お前はこの地下の庵から一歩も出てはいない」


「夢とは何だ、ボージェス」


「それは沢山ある世界の一つではない。唯一の世界、お前自身が存在している世界そのもの」


「だがそれでは目覚めの際に二義性に巻き込まれてしまう、なぜならば我々が存在している世界がいったい何なのか? という問いに立たされるからだ」


 ゴーシェがそうきっぱりと答えると、ボージェスの姿は徐々に霞んでゆき替わりにシグムンド公子が眼前に現れた。


「ボージェスには死んでもらう、お前を誘き寄せろとあの方の命でな」


 悪びれもせずシグムンドは、あの赤子が狼の乳を吸う意匠の懐剣を弄んだ。


「誘き寄せるだと? どういうことだシグムンド」


「彼を殺せばお前はのこのこと都へ出てくる」


 だがシグムンドもだんだん遠くへと消え始めた。


「待て! あの方とは誰だ!? 答えろシグムンド!!」




「しっかりしろゴーシェ! ゴーシェ!!」


 アルチュールの声で目を覚ましたゴーシェは己がきっちりと縛られていることに気が付いた。

 それも船乗り式に親指を縛る格好で。


 頭がガンガンする。

 夢の後半、シグムンドは何か重要なことを喋っていた気がするが、それがゴーシェには何かはっきりとは思い出せなかった。


「ここは……」


「最悪です、海に放り出されて、すわ助かったと思ったら縛られて牢の中ですよ」


 そうダオレは説明した。

 同様に縛られているセシルはまだ意識がない様子だ。


 牢は冷たく海の中よりマシという程度の板張りだった。


「オレはどれだけ寝ていたんだ……?」


「私が目覚めてから二時間は意識が無かったな、ひどく(うな)されていたようだが――」


「殺された養父の夢を見ていた。チッ夢見の悪いことにシグムンドまで出てきやがった……」


「それはそれはお疲れ様でしたね、でもぼくたちの武器は取り上げられてるようですし、おまけにここには見張りらしき男がいて話は筒抜けです」


「フェリの言っていた海賊か……」


「うむ、その私掠船に捕まった可能性が高いな」


「オルランダはどうした?」


「助からなかったか……別に囚われているかどちらかでしょうかね」


「クソ! 囚われていてもいいから助かってることを願うしかないぞ!」


「ゴーシェ落ち着いてください」


「落ち着け、ゴーシェ」


 そしてダオレはそこに転がっているセシルを見遣った。


「そこのセシルですがいまだ眼を覚まさないだけで、応急処置は受けているようですよ。相手方に殺す気はまだないようです」


「まだ!?」


「おい、落ち着けゴーシェ! お前が焦ってどうする」


「落ち着いてられるか! もしオルランダが助けられてるというのならば、何故オレ達と別室に居る? それこそ彼女の危機じゃないのか!?」


「ゴーシェお前……」


 アルチュールは彼の剣幕に衝撃を隠せなかった。

 それはダオレも同じであった。


 一行は、これから私掠船でどうなってしまおうというのであろうか――

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