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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
6.狂気の山脈
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公子の山海経

「家が廃屋になっている!? どういうことだ?」


 アルチュールは開口一番部屋に変貌に驚いて見せた。


「あのジオムバルグという女の人もいないわ、一体なんだったの!?」


 一同はぼろぼろに朽ちた家で一晩を過ごしたことを知るとぞっとした。


 ゴーシェを除いては。

 ()()()

 確かに彼女はそう自分を名乗った、僭称にせよ……


 そしてグラムを抜いた。刀身は白銀(しろがね)に輝いている。

 彼は圧倒的すぎるこの星の集合的無意識を知った。

 それがあのマンティコアの出現と関わりがあるということも。


 廃屋を出るとそこらじゅう一面に朽ちたヨツメウシの遺骸が木乃伊化して転がっていた。


「こんなに肥沃な土地なのに何故……」


「オルランダ、ぼくたちは何か不思議な夢でも見ていたのでしょうか?」


 ダオレは訝しがったが、事態は変わらなかった。


「おい、ゴーシェなんだ、グラムを抜いたりして。お前あの廃屋を出てからおかしいぞ?」


「アルチュール」


「どうした」


「ひとつ手合せしてはもらえぬか?」


「なんだ藪から棒に、構わぬがどうせ勝てぬぞ」


「オレにも分からぬ、ともかく頼む……!」


 仕方ない、といった様子でアルチュールはシャツ姿になり袖を捲ると、マサクルを抜き放った。

 それに合わせてゴーシェはグラムを構える。


「行くぞ!」


 アルチュールは若干手加減しているようだったが、すぐにそれを止めた。

 様子がおかしかった。

 まるでゴーシェはグラムを握ってそれに合わせて体を動かしているだけに見えたが、グラムの打ち込みは あまりに早すぎて着いていくのがやっとであった。


――莫迦な!

 まるでゴーシェの方が、否、()()()がアルチュール相手に手加減してるとしか思えないのである。

 この剣には意志があるとでもいうのか!

 そして重い一撃がマサクルを弾き飛ばし、アルチュールは草地に倒れ込んだ。


「ゴーシェの勝ちです!」


 ダオレがそう叫ぶまで、アルチュールは呆然自失としていた。


「大丈夫か?」


 ゴーシェが手を差し伸べても、まだアルチュールはぼんやりとしていた。

 そしてやっと目を覚ましたように、一言、


「ああ……」


 とだけ、応えた。


「ゴーシェ、あの奇妙な廃屋で何あったな? これは尋常ではないぞ……」


「その時が来たら話す……今は気持ちの整理がつかないのだ、ときにアルチュール」


「なんだ」


「メルキオルとは誰だ?」


「メルキオル?」


「それは、アルテラ25世アシュレイ・サージェス・メルキオルその人ではないか……」


「そうかやはり王か」


「どうしてその名を?」


「いや昨日我々の前に現れた奇妙な女、ジオムバルグが言っていたのだ。()()()()()が最後の最悪の敵になると……」


「王がか……確かに彼は最高の剣の師範に付いてはいるが剣技ではシグムンドが勝るとの専らの噂、しかし何か王には隠し玉があるやも知れぬな」


「そしてオレはこの盆地を含む山地が『狂気の山脈』であることも知った」


「狂気の山脈?」


「そしてこの山脈に出没する怪異を斃せとの宿命だ」


「おい、ゴーシェ何を言っている?」


「ゴーシェ、さっきから聞いていれば何かあの幻のような、ジオムバルグに感化されてしまったようなことを言っていますよ!」


 アルチュールとダオレが二人で怪しむが、ゴーシェの決心は固いようだ。


「言ってくれるなダオレ、オレはこれから一人でその怪異を斃しに行かねばならぬ」


「ゴーシェ、やっぱりあなたおかしいわよ? アルチュールさんとの手合せで勝つし、いったい何があったのよ?」


「オルランダ……」


「わたしだって狐につままれたと感じているけど、あなたの変貌っぷりはおかしいわ! せめて何があったか話してよ!」


 彼女に強く言われてゴーシェは言葉に詰まったが、強い意志でそれを無視した。


「兎も角これから山に分け入る、誰も付いてこないでくれ、特にオルランダ」


「ちょっとどういう事よ!」


 そう言うとゴーシェは斜面を登りはじめた。


「ああ、行ってしまうぅううう~」


「セシル、出遅れたなお前……」


 残された四人はそこでゴーシェの帰りを待つしかなかった。

 しかしあの幽霊屋敷じみた家は何だったのだろうか? そして女主人ジオムバルグ。

 セシルを除いて彼女には皆、既視感があった、それは何故?

 ゴーシェがグラムを制御し、アルチュールにいとも簡単に勝利すると今度は怪異を斃すと言い出した。

 そして、国王、アルテラ25世の名である()()()()()を、警告の対象として携えていた。


「全く謎だらけだな……」



 おれがあの家の居間で見た、判別不明の本それが今何か判った。

『山海経』!

 ゴーシェは如何なる試練にも立ち向かおうと山脈の森林地帯へと分け入っていった。

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