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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
5.漂流、ゆえに血の証
50/100

敗走のはじまり

「クソッ! もう追手を放ったか、王家の犬め!」


 その晩、斥候として貴重な馬を出していたオリヴィエは、1ガラム(馬で数時間)程の所に正規軍百人程度の軍勢が陣を張っているのを見つけ慌てて戻ってきた。


「どうします? ミーファス」


「何時までもここにはいられまい? いくぞ」


 遂にミーファスはロシェからの進軍命令を出し、空白地帯へと突き進むことになる。

 大慌てで戻ってきたアルチュールは、何やら落ち着かない様子だったが、概ねオリヴィエからの報告を聞いて納得した。


「ところでゴーシェを見なかったか?」


「ゴーシェ? 見ていないな。今は進軍のために荷物を纏めるのに精いっぱいだ」


「なにちょっとした私の知っていることを話しただけだ、それにいたく衝撃を受けたらしくてな――」


「委細は後程聞こう、今はここを畳むのが先だ、後半刻もすれば追いつかれるぞ」


 すっかり旅姿を整えたオルランダとダオレは心配そうにその撤収作業を見ていたが、やはりゴーシェがいないことに気づいていた。


「ゴーシェはこんな時にどこをほっつき歩いてるのよ!」


「わかりません……しかし、オルランダさんも様子がおかしいですよ。先ほど何かあったんですか?」


「何もないわ!」


 オルランダは怒鳴ったが、ダオレはどこ吹く風で飄々としている。


「そろそろ出立時間ですね、あ。ゴーシェ!」


 噂のゴーシェその人が戻ってきたのだ。

 だがオルランダは目を合わせようともしないし、ゴーシェは完全に上の空だ。

 ふむ……これは少々別口で事情がおかしいぞ。と、ダオレは得心した。


「ゴーシェ、村を出ますよ! 準備はいいんですか?」


「元から着の身着のままだ。構いやしねえ……」


「もう皆、広場に集まっています早く!」



 村の井戸のある広場だった焼け焦げて据えた臭いの漂う場所に行くと、既に二十人ほどの汎神論者たちとミーファス、アルチュール、オリヴィエが集合していた。


「いいか我々は二手に分かれる! 地上から空白地帯を進む部隊と、地下水脈の続きの地下迷宮から空白地帯を進む部隊だ」


「地下水脈の続きが広がっていたのか……」


「そういうことだアルチュール、してどうするどちらを進んでも野生動物は避けられそうにないが?」


「旧ボレスキン伯一行は地下を行こう、発見されにくい」


「解った。ではここでしばしの別れだ、友よ」


 どうやらミーファスは汎神論者達と地上を進むらしい。

 いつもならここで、勝手に決めやがって。

 くらいの文句は飛ばす筈のゴーシェがだんまりを決め込んでいるのは、どうにも不自然だったが。


「アルチュール地下水脈の続きの入り口はそこにある井戸だ」


「そろそろ正規軍が到着してもおかしくありません、急いで!」


 オリヴィエに言われるままアルチュール、ダオレ、オルランダは井戸のロープを順繰りに下りはじめた。


「何をしているゴーシェ、お前は行かぬのか?」


「……ああ、世話になったミーファス。ではさらばだ」


 やや放心していたゴーシェはゆっくりと井戸へと降りて行った。




 アルチュールは松明に灯りを灯した。


「遅いぞゴーシェ」


「ああ……」


「一体ゴーシェはどうしてそんなにボンヤリしてるんです? 説明が欲しいですよ」


 ダオレが問いかけるが誰も答えなかった。


「火が燃えている、酸素は確保できている。といったところか」


 ダオレは諦めて話題を変えた。


「水路から乾いた通路になってますねここを北東へ進めばいいと?」


「そういうことだ」


「通路は失われた時代のものでしょうか? ところどころ朽ちた商店の跡が見受けられますね」


「もっと昔のものにも見えるな……まさか我々の足元にこんなものが広がっていたなどとは、夢にも思わなかったが」


「もっと……昔の時代……」


「どうしたオルランダ? この様式に見覚えがあるのか?」


 アルチュールは問い質した。


「以前、湖となった砂漠の水面下に広がる都市を見たんだけど、こんな塩梅(あんばい)だったわ」


「ふうむ……それより私から連絡だ」


「何?」


「何でしょう?」


「ゴーシェのことだが――」


 だが自分の事に触れられてゴーシェは怒鳴った。


「うるせえ、アルチュール! あることない事ぬかすんじゃねえ!」


「私は事実を述べるまで、そこのゴーシェ君は今まで知っていて黙っていて悪かった。彼はアルテラ王の兄だ」


 言ってくれるな、といった表情でゴーシェは嘆息したが構わずアルチュールは続けた。


「神託によって弟を必ずや殺すだろうと宿命づけられた、ゴットフリト公子その人だ」


「オレは信じないからな!」


「まさかゴーシェが王子様だったとは……! それでカリカリしていたんですか」


「ちょ、いきなりすぎるわ! わたしは信じないわ、だってゴーシェはゴーシェですもの!」


「オルランダ……?」


 オルランダはゴーシェに抱き着いた。


「あなたはゴットフリト公子なんかじゃない、砂漠の学士ゴーシェだわ!」


 そう言うとオルランダは嗚咽した。


「あの……二人の世界に悪いのですが」


「どうした、ダオレ?」


「正規軍の追手です数人ですが奥の水路を来ますよ! どうしますか?」


「ぶっつぶす!」


 そう言うとゴーシェはグラムを抜き放った。

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