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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
4.黄金の十字架
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フォルテ

「フォルテ!? なぜここに?」


 ゴーシェは憤って叫ぶが、一番吃驚していたのは実のところアルチュールであった。


「何故、何故、貴公が斯様なところへ……」


「それはこちらの科白だボレスキン伯爵、何故夜中に黒ずくめで従者を二人連れ貴方はこのようなところに居るのだ――」


 そしてフォルテは三人を見遣ると眼鏡の奥で眉を顰めた。


「そう、物騒なことに血の臭いすら、するではないか」


「――これは」


 アルチュールは弁解に困り息を飲んでいる。

 ゴーシェとダオレはこのようなアルチュールの態度は初めて見る物だった。

 あの自信に満ちて堂々としたアルチュールが狼狽している、ではフォルテとはいったい何者なのか?


「貴公は聖堂騎士団(せいどうきしだん)の味方なのか?」


 ようやくアルチュールの吐き出した答えはそれだったが、フォルテは呵呵(かか)と笑った。


「俺は誰の味方でもない、それが聖堂騎士団であればなおのこと」


「どういう事ですか」


「アルチュール・ヴラド、俺は自らの意思でここにいる。恐らく目的は同じ……」


 聖堂騎士団連中は国王は懐柔済みと豪語していた筈、ならばこの男が『王討派(おうとうは)』なのは本人の弁からも間違いないはずだ、ゴーシェはそう理解したが、アルチュールの態度は何かがおかしかった。


「この先にアーシュベックがいるだろう、お前の剣の腕前では敵わない。死にたいか?」


「死を賭しても叶えたい理想が私にはある、邪魔立てするのならば貴公であれど剣の錆にする!」


「止めておけ」


 一瞬の隙も見せず、フォルテは剣を抜いた。


「残念ながら俺に勝つこともできないだろう。いいか、俺がアーシュベックを何とかしようというのだ、良い取引ではないか、ボレスキン伯」



「なんだと……」


「なぜならお前たちと俺は目的が同じだからな」


「私は国王を追い落とす気はない!」


 なるほど……やはりフォルテ殿は『王討派』なのか、ゴーシェは得心した。

 だとすると相当身分の高い出自であるであろうし、図書館への出入りなども簡単に行えたわけだ。


「俺の目的もミーファス殿の救出だ、早くせねば今夜中にもアーシュベック枢機卿たちに処刑されてしまうぞ?」


「………………」


アルチュールは、音を立てて剣を落とすとそのまま彫像のように固まってしまった。


「さて、従者の二人、お前たちはどうするのだ」


 すると先ほどまでだんまりを決め込んできたダオレが話し始めた。


「どうやら利害が一致していますし、貴方に逆らう利点はなさそうですね。ただしわたしはアーシュベックの強さを知りません。貴方で敵うのでしょうか?」


「ふむ、アーシュベックには俺を殺せない理由がある、それはあいつがまさに正規軍に所属していたからなのだが」


「殺せない理由? どういうことだ」


「それはまだ現時点で君らが知ることではない、いずれアルチュールの口から説明されるだろうが……」


 ゴーシェが口を挟むがフォルテは言葉尻を濁すばかりだった。


「おい、アルチュール、ボンヤリするな」


 肩をゴーシェに揺すられてようやくアルチュールは正気に帰ったようだった。

 そのとき……


「敵襲です! ゴーシェ、アルチュール、フォルテさん! 構えて!」


 ダオレは叫んだ。

 裏口に続く扉から聖堂騎士団の僧兵が四人、棍棒を構えて飛び込んできた。


「行くぞ!」


 フォルテは風のように舞うとアルチュールよりも更に優雅な剣捌きを見せ、一人目の僧侶を音もなく袈裟切りに斬り去った。


 濃い、血の臭いがつんと鼻先を掠めた。


「殉教者の誉れよ!」


 残りの三人はそう口々に言うと我武者羅に襲いかかってきたが、正気に戻ったアルチュールは棍棒を抜き身の剣で受け止めると一人目の鳩尾に蹴りをお見舞いし、返す刀で首を刎ねた。

 ダオレもすれ違いざまに二人目の腹を鉈で裂くと致命傷を与え、倒れたところにとどめを刺した。

 ゴーシェは()()()を抜くも棍棒の軌跡を追うのに精いっぱいで、なかなか斬撃を与えることができない。


「フフフフ……、デュランダー・カスパル。なんてこった、お前さん一番弱かったのか!」

愉快そうにフォルテはそう叫ぶと、ゴーシェと僧侶の間に割り込んだ。


「おい、助太刀は無用……」


「そう言うな」


 風のように剣を振るい、フォルテはあっという間に僧侶を捕らえると壁際に追い詰めた。


「とどめを刺せ、デュランダー・カスパル!」


 その名でよばれてゴーシェは困惑したが、ここまでお膳立てされて剣を振るわぬのも男が廃るというもの、僧侶の心臓めがけてグラムを深々と差し込んだ。

 あっという間に四人の人間が死に至り、先ほどよりも濃密な血の――死の臭いで|礼拝堂は満たされていた。


「やれやれ、すっかり血で汚れてしまった」


 人を殺めた、というよりもその方が重要であるかのようにフォルテは言い放った。


「お前さんたちとはここで待ち合わせをしていたようなもの、ぐずぐずしていると更に追手が来るぞ? こんな礼拝堂には用はない」


「やはりここに隠し階段があるのか……」


 アルチュールは疲れ切って、やっとその言葉を吐き出した。


「ご明察! ではこの説教壇をこちらに動かすから手伝ってもらおうか?」


 フォルテはにやり、と笑った。

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