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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
4.黄金の十字架
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襲撃

今回のゴーシェの言っていることが、解り難かったらみ飛ばして大丈夫です。

挿絵(By みてみん)


『がらくたの都』は北の山脈から吹き下ろす風によってこの季節、夜間は雨になることが多かった。

 この晩も例外ではなく、日付の変わるころには冷たい雨になっていた。

 新街区、灯りの消えた商業地に立つ異形の建物、聖堂騎士団大聖堂である。

 霧雨に打たれながらも佇む黒い外套の三人の男は、闇の中から滲み出たかのように声を潜めた。


「遂に決行か……」


「アルチュールさんが緊張してるとは珍しいですね」


「莫迦かダオレ、私とて人の子、緊張くらいはする――それが場合によっては切った張ったをしようというのだ。尚更のこと」


「とはいえ聖堂騎士団(せいどうきしだん)のヤロー共が、敵対するの汎神論者(はんしんろんしゃ)のリーダー格をみすみす解放するとでも?」


 ゴーシェは毒づいた。


「寒いな」


 誰の独言であろうか。

 実際季節はもう秋であった、否、秋と呼ばれる季節の痕跡が一部の植物を色づかせる程度なのだが。

 それを皮切りに三人の男は聖堂の裏手目指して進んだ。


「成る程、(くさむら)に巧妙に裏口を隠していたか」


 聖堂内の敷地を囲む庭はわざと草の生えるままに、手入れを為されていなかったがそういうわけだったようだ。


「アルチュール、ゴーシェなるべく殺生は慎みましょう。そのアーシュ……」


「アーシュベックだ」


「に、見つかるのが早くなります」


「チッ、オレはあまり戦力にならねえ、いざという時はアンタらに任せて――」


「ゴーシェはミーファスの救出を第一に頼む」


「そういう役回りらしい」


 ゴーシェはそう言って肩をすくめた。

 裏門には鍵すらかかっていなかった。

 誰か夜間に人の出入りがあるということか? そうでなければ不用心に過ぎる。

 おそらく我々の行動は読まれている、そう考えてさしつかえないであろう。

 しばらく行くと扉があった、地図が正しければ聖堂への扉だ。

 だが()()()()を務めるダオレが息を飲み、次の瞬間には抜いていた。

 鉈の白刃がきらめくのと僧衣の男が絶命するのはほぼ同時であった。

 事切れた遺体が棍棒を持って倒れかかった。


「おっと」


 アルチュールは遺体を支えると通路に座らせる形で置いた。


「こいつが見つかるのも時間の問題だが」


「やっぱりばれてるじゃねえか」


「先を急ぎましょう」


 いつでも抜刀できるようゴーシェ、アルチュール、ダオレの三人は束に手をかけて固く閉まった扉の前へと陣取った。

 聴覚には自信のあるダオレが耳を(そばだ)てる。

 しばし目を閉じて内部を窺うが何も聞こえない様子だ。


「誰もいないはずないのですけど……」


「居ないならいないで好都合だ、行くぞ!」


 アルチュールは合図した。

 だが三人が重々しい聖堂への扉を開けると、そこは松明に照らされこそはすれ、無人であった。


「ぼくはこのように柱を沢山配置する、様式は見たことがありません」


「地図によるとこの部屋の隣の別の礼拝堂から地下へ降りられるようだな」


 だが黄金(きん)色の十字を配した荘厳な伽藍を、いつまでもゴーシェは見ているばかりだったのでアルチュールは、


「なにをボンヤリしている!」


 と、黒いマントの下の袖を引いた。


「聖堂騎士団の信仰形態がこの伽藍と内陣、外陣の形から判ると思って視ていた」


「田舎学士風情が判るのか」


「学士に田舎も都会もあるものか――伽藍とは内なる世界の投射に過ぎん」


「?」


「これは聖堂騎士団たる宗教団体が理想とする内的世界を現している、

内陣は特にそうだ、黄金色の十字架は派手と言っても差し支えない技巧で装飾されている。

特に一神教の場合がそうだが、このような象徴(シンボル)が信仰対象なのだろう。

外陣はもう少し開かれている。というか『わかりやすい』

ここに様々な聖堂騎士団の『奇跡』が解りやすく象徴化されている」


「つまり目に見ない世界を目に見えるように具現化したということか?」


「そうだ、だが目に見えるものを感じずに、目に見えないものを感じることができるか?」


「何だその謎かけは?」


「謎かけではない、言葉のままだ。どちらか片方だけでは不完全なのだ」


「おい、ゴーシェいったいこんな時まで何を言っている?」


「行きましょう二人とも、先ほどの見張りの遺体が発見されている可能性は高いですよ」


「ダオレの言うことももっともだ。先を急いだ方がいいだろう最悪の事態を想定して」


「ほう、アルチュールの言う最悪の事態とは?」


「ミーファスが既に処刑されていた場合――」


アルチュールの青い眸がぎらぎらと輝いた。


「聖堂騎士団ごとぶっつぶす、これが最悪のシナリオだ」


 ゴーシェは口笛を吹いた。


「伯爵家の御曹司とも思えない発言で吃驚だ。思っていたよりもずっと過激派じゃないか、え? アルチュール」


「お喋りはそのくらいにしてください二人とも、もう行きますよ! いつ追手が来るかわかったもんじゃない」


 そう言うとダオレは勢いよく次の部屋へ続く扉を開けた。

 黒衣の三人の男は抜刀して一気に部屋になだれ込む。

 先ほどの聖堂のミニチュアールのような作りの礼拝堂の奥に居たのは果たして……


「貴様……いつぞやは図書館に!」


 ゴーシェは叫んでいた。

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