表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
3.三番叟の騎士
27/100

『がらくたの都』へ

長かった! ようやく都にオルランダは帰り着きました。しかしここからがこのお話の本編ってことを……解ってますよね(笑)

 ボレスキン伯爵の荘園を出て五日目の朝、オルランダ、ゴーシェ、ダオレ、アルチュールの四名は漸くがらくたの都を望む小高い丘に出た。


「どこにでも中心があり、どこにも境界がない、そう形容される『がらくたの都』だ」


 アルチュールはひとりごちた。


「ふん……」


 ゴーシェははなから興味がなさそうだったし、オルランダは妙に怯えていた。

 無理もない、人買いから逃れてきたのだから。


「へーっ! あれが『がらくたの都』ですか! 何があるのでしょう? 人がいっぱいいるんですか?」


「そうよ、人間だらけよ、もう住めないほどにね」


 ダオレだけは子供じみた好奇心で以て都を期待していたが、他の三人は明らかに都に対してうんざりした態度を取っていた。

 アルチュールとオルランダは実態を知っていたからだと思われるし、ゴーシェはそんなものに興味を持つのはバカバカしいと感じていたからだろう。


「このまま行けば昼前には入門できるな」


「そういえば正規の入り口には門番がいるの?」


「ああ、しかし流民や奴隷に戸籍はないし、お前たちは皆私の従者という触れ込みにしておいたから難なく通れる筈だ。オルランダ君、ダオレのようにターバンで髪を隠し給え金髪は目立ちすぎるし君は男という触れ込みで連れてきてある」


「男……ですか」


 オルランダは見るからにがっかりとした。


「セシルの替わりに小姓として、オルランドという名前で登記させて貰った。なに館につけば女として振る舞っていいのだ、しばし迷惑をかけるすまんな」


「随分と勝手に物事を進めるんだな、アルチュール。一体どうやって連絡を取った?」


 普段から鋭いゴーシェの目が一層鋭くアルチュールを見遣った。


「連絡用の鳩だ、これで近衛隊に連絡させてもらった。ちなみにゴーシェ君とダオレ君は私の護衛役だ。実際、ダオレ君は相当腕が立つ」


「大の男が二人も護衛を付けるのか、『がらくたの都』とは物騒なところなんだな!」


「実際物騒よ、貴族の公達がどんな自衛をしてるか知らないけれど、わたしのいた貧民屈なんて盗みなんか日常茶飯事なんだから」


「チッ! 早くボージェスの仇を取ってオレは砂漠に隠遁したいぜ」


 憎々しげにゴーシェは都の方角を見た。


「だがその砂漠の庵も安全とは言えませんよ?」


「その通りだ、ゴーシェの命を狙う者どもがいる」


「またか! またその名か! デュランダー・カスパル!」


「ゴーシェ」


 アルチュールはかれに勝る上背で以てゴーシェを覗き込んだ。

 青い瞳がぎらぎらと光っていた。


「その名は絶対に都では口にするな、命が惜しくば、な」


 徐々に(ひる)が近づくにつれ都も近づいてきた。

 ゴーシェとダオレは改めて都の大きさに驚いていた。

 昼食も摂らず一行は歩き続け、ついに都の大門に午後一、辿り着いた。

 なるほど門には5人の番兵が立っている。


「止まれい! 何者だ?」


 鎧に身を包んだ番兵たちは誰何した。


「拙者、アルチュール・ヴラド・カタリナ・サビア・フォン=ボレスキン伯爵にて(そうろう)、近衛騎士団直々の召集令状を持ってこの都へ参った」


 アルチュールは堂々と書状を見せる。

 番兵たちはどよめいた。


「書状はこちらで検める、してその3人の怪しい者達は?」


「拙者の護衛、ダオレ、ゴーシェと小姓のオルランドだ。なに屋敷で遣うだけのこと」


「二人のその頭に巻いた布は?」


「砂漠風の民族衣装だ、知らぬのか、無粋なことよ――否、これは失礼砂漠でも身分の低い者の風体ゆえそなたらは知らぬと(そうろ)えど仕方なし」


 しかし番兵たちは今度はオルランダをじろじろと見始めた。


「そちらの小姓とかいった少年、若い女に見えぬこともないが?」


「彼はわが方でも頻繁に女と間違えられ困っていたものよ、まだ13歳故言葉もよく知らぬ勘弁してやれぬか?」


 オルランダは3歳も年若く言われカチンときたが、ここで身体検査などされてはアルチュールどころか自分の危機なので「そう困ってるんです」といった表情を浮かべるに留めておいた。


「あい、わかった! 伯爵殿、書状は本物であったし3人の従者を付けるということで問題ない、がらくたの都へ入るがいい」


 番兵が総出で巨大な門を開けた。

 いったい何からこの都を守っているのだろうか?

 それもわからぬまま4人はしばらく都へ続く切り立った崖の下の真ん中を歩いていた。


「ここは敵が攻めてきたときの天然の要衝だな……」


 ゴーシェはぽつりと言った。


「ふむ、では『生命なきものの王の国』はいったいどこと戦をすればいいのだ?」


「あれれっ? この国以外に国はないのですかっ?」


 アルチュールの答えにダオレは素っ頓狂な声を上げた。


「そんなものはない、もう何百年も『生命なきものの王の国』のみしか存在していない」


「では歴史は? 過去は? この国の成り立ちは? いったいどうなっているのだ」


 ゴーシェは聞き返した。

 

「さあな……神々は去った、そう口伝で伝えらているが」


「その残滓が神の両腕か」


「ゴーシェ、都ではその話もするな、妙な連中が聞き耳を立てている」


「……っておい、さっきからオルランダが静かすぎると思わないか? やっと着いてきてるぞ」


 後方を死霊のように歩くオルランダに3人の男たちは今やっと気づいた。

 アルチュールが駆け寄った。


「ひどい熱だ! 急げ、屋敷に運ぶぞ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
評価、感想、ブクマ、レビューすべて励みになります。
どんな些細なことでもよいのでお待ちしております。
ねたばれ報告はこっそりとお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ