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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
2.ボレスキン伯爵
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砂漠を渡れ

 戻ってきたダオレとゴーシェ、オルランダが案内されたのはアルチュールの自室だった。

 青と銀を基調とした品の良い室内、彼の父だろうか、白髪の少し混じった黒髪に青い瞳の面差しが良く似た中年の痩せた男性の肖像が、飾られている。

 客用のソファーに腰かけたアルチュールは鎖帷子を外し、近衛隊の略装の軍服といういでたちだ

「やれやれ、子爵の処罰には手を焼いたがそうか……彼がそう思っていたとはな」


「は? 何一人で得心してるんだ説明しやがれ」


「ゴーシェ、子爵は子爵を騙る者に遺体まで利用されていたんです、彼の亡骸は数日の間に葬られるでしょう」


「あー! 言ってることがまじわかんねー!」


 ゴーシェはオルランダ同様事態が呑み込めず、おまけに苛々していた。

 それをよそにアルチュールは話し始めた。


「オルランダには以前話したのだが私には大それた理想がある、笑ってくれるなオルランダ嬢」


「いえ、アルチュール様、とても素敵な理想かと思いますが……」


「そして実は私の謹慎は二週間前に解けている。もう『がらくたの都』へ戻らねばならん」


 アルチュールは室内をぐるりと見回した。


「私と共に『がらくたの都』に着いてくるものは?」


「ぼくがお供しましょう、行き倒れで行くところもなくかつボレスキン伯の大恩も忘れません」


「わたしも行くわ! すべての身分が消えた世界を見てみたいから、アルチュール様に着いていく!」


「……オレはテメェに着いてくわけじゃねえ、養父の復讐のための旅だ、忘れるな……ところで理想だぁ? アルチュール、オメェ何を考えてやがる?」


「現在の身分制度を打破する」


「そんなことできると思ってんのか!? 狂気の沙汰だ」


「ふむ、私は狂っているようだがこれは成し遂げる予定だ」


「まあいい、テメェは養父の復讐に利用させていただいたら、用済みだ」


「そう上手くいきますかね?」


「黙ってろダオレ!」


「あ! ところでアルチュールさん」


 オルランダは思わず質問していた。


「真ん中に名前が入ってる人って貴族より上なんでしたっけ?」


「ん? そうだね、わたしも本当はアルチュール・ヴラド・カタリナ・サビア・フォン=ボレスキンというのが正式名称だ。母の名前を名乗っているのだよ」


 そう、言ってアルチュールはにこやかに微笑んだ。


「でしたらデュランダー・カスパルという名前に聞き覚えはありませんか?」


「……っ、おい、勝手に言ってんじゃんねえ!」


「これはこれは、ゴーシェ、君の名前かい」


「ゴーシェの養父を殺害した賊が確かに彼をそう呼びました、心当たりはありませんか?」


「………………」

 

「アルチュール?」


 アルチュールはひどく落ち込んだ顔で考え事を始めてしまい、彫像のように動かなくなってしまった。

 そうして数分経ったが、ようやくアルチュールは考え事から解放されてゴーシェの肩に手を置いた。


「悪いことは言わない、ゴーシェ君この名前のことは忘れるんだ。時が来ればこの名で君は呼ばれるようになるかもしれないが、今はともかく危険すぎる。」



 その晩オルランダは再び入浴し今度はゴーシェの与えた旅装束に着替えた。


「アルチュールさまが居なくなると寂しくなりますねえ」


「セシル……それだけアルチュールさまを慕っていたのね」


「勿論、嗚呼、子爵も居なくなり残るはアーリャ・ミオナ様のお世話だけか……気が重い」


「お屋敷のお嬢様、アルチュールの従妹。綺麗な方よね?」


「性格がね……」


「ああ、そうなんだ」



 夕食はアルチュールの部屋に全員招かれていた、質素な砂漠産の食事。

 アルチュールの目的は地図を見せるところだったらしい。


挿絵(By みてみん)


「またもや砂漠を越える、まあ『がらくたの都』は砂漠に浮かぶ要塞のようなものだから仕方ない。ここから都を目指すには北を上に見た場合反時計回りに歩いてなるべく『幻の湖』を避けるしかない」


「そうだな」

 

 葡萄をがっつきながらゴーシェは答えた。


「まあ、この辺りの砂猿(ク=シュマ)はダオレとゴーシェで退治したというのだから、さしたる危険もないだろう。六日ほど歩けば都に辿り着く」


「馬は使えねえのか?」


 葡萄の種を飛ばしながらゴーシェは質問した。


「よい、問いだ。飼葉になる物がない、我々は魚を食べればよいだけの話だが」


「なるほど、でそこの女が音をあげたらどうするんだ?」


「私が丁重に抱きかかえてお連れするさ」


「さすがはムキムキマッチョマンの変態だな」


 ゴーシェは何やら思い出しながら鼻で笑うが、アルチュールは一向に気に留めない。


 傍でダオレが青くなっている。


「でも『がらくたの都』にどうやってこの人数で入るの?」


 オルランダは心配を口にしてきた。


「まあ、任せたまえ私は謹慎していたとはいえ近衛隊の副長にして伯爵、従者の3人ばかし領地から連れ帰ったところで怪しまれることは何もない。むしろ単身乗り込む方がよっぽど不自然だ」


「てことは都のボレスキン家のお屋敷にしばらく逗留!?」


「というわけだ。今夜はこれにて解散だな、お疲れ様」


 そうアルチュールが合図すると3人は出て行った。

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