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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
2.ボレスキン伯爵
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理想ゆえに死に急ぐ者

「マキシムス・レオン・フォン=ボレスキン!」


 ボレスキン子爵、ではなくアルチュールは彼を本名で呼んだ。

 伯爵領を抜けて砂漠を馬で征くこと2ガラム、果たしてアルチュールが目をつけていたオアシスにマキシムスその人はいた。


「これはこれはアルチュール・ヴラド・フォン=ボレスキン伯爵……」


 逃亡生活からか、無関係の者を手にかけた呪わしさからか、頬はこけ無精髭の伸びきった子爵は、夜半オアシスの泉の傍らで暖を取っていた。


「そちらのターバンの者は?」


「ダオレだ、名推理でお前の悪事を見事暴いた」


 すると子爵は壊れたように笑い出した。


「何がおかしい!」


「アルチュール、お前一人ではこの事件解決できぬと見える。ダオレだと? どこの馬の骨とも知らぬ怪人物ではないか」


「言わせておけば!」


「お待ちくださいアルチュール様、ぼくが怪しいのは百も承知、ただ子爵と貴方が剣を交えるのは感心いたしません。従弟殺しの汚名を着たいわけではありますまい」


「ほお、ダオレ君がワタシの相手をするというのか」 


 子爵はゆらりと立ち上がった。

 鋼の新月刀(シミタ―)を抜く。

 アルチュールは頷くとダオレの鉈を投げて渡した。ダオレもそれを抜く。

 満天の星空の下、焚火を挟んで二人の男が対峙する。

 そのとき一陣の突風が巻き起こり炎は一瞬にして消え去った。

 それが合図だった。

 子爵はかなりの使い手であったがダオレはそれ以上であった。

 切り結ぶうちに徐々にオアシスの池の淵へと子爵は追い詰められていく。

 ダオレの圧倒的な剣技にアルチュールは驚愕していた。

 近衛隊にすらここまでの技量をもつものはいないであろう、無論正規軍でも類稀なる技である。

 返す剣の子爵もあまりのダオレの速さに受け流すのがやっとで、反撃どころではなかった。

 遂に泉の水に崩れ落ち、膝をつくとダオレの鉈が子爵の喉元を指した。

 子爵は肩で息をしているが、ダオレは呼吸一つ乱してはいない。


「勝負ありましたね、子爵」


「殺せ!」


「その決定権はぼくにはありません、ボレスキン伯爵!」


「マキシムス、死人を出してまでの逃亡、理由を詳しく聞かせてもらおうか?」


ボレスキン伯爵は身振りでダオレに鉈を下げるように命令した。


 喉元から切っ先が外された代わりに、今度はアルチュールの懐剣が子爵の喉に当てられた。

 そして全てを悟った子爵は絞り出すように答えた。


「ワタシは子爵の身分が嫌だった!」


「なんだと!?」


 アルチュールは驚いて目を丸くした。


「自由もへったくれもない、制限だらけの人生。アーリャ・ミオナ! あの女と結婚するのもまっぴら御免だ、高慢ちきな俗物、絵にかいたような莫迦女だ! あれからも逃げたい! そんなとき領地でワタシにそっくりな男がいると噂になっていた、だから顔を隠してその男に会った『鉄貨(ザーヒル)100枚で子爵の替え玉をやらないかと』男は二つ返事だ、その後彼は……殺した。そして子爵がまるで賊に殺されたように遺体を動かして攪乱していたのだ。これは半ばうまくいった、騒ぎになってくれたからな……だがそもそもの原因それはアルチュール・ヴラドおまえのせいだ!」


「どういう事だ!?」


「……伯爵、それはあなたの理想が、あなたの従弟に影響を及ぼさないとでも思っていたのですか?」


「私の、理想……?」


「身分なんて無くしてしまえというあなたの理想です、それを耳にしたとき子爵という地位に甘んじていた、マキシムスさんはどんなにか嘆いたことでしょう、それが解りませんか!」


「嗚呼、ダオレ、そうなのだ、そうなのであった。どんな身分の者も等しく自由になるべきと(うた)ったのは私ではないか! それは子爵であっても例外ではない、しかし、しかし……」


「解っているワタシのしたことは赦されることではない」


 そう言って子爵は呆然としてるアルチュールの懐剣を奪い取った。


「落とし前は自分でつけよう」


「いけない!」


 子爵が喉を貫くよりも早く、ダオレの鉈の柄がアルチュールの懐剣を弾き飛ばしていた。


「……はあ、はあ、なぜ」


「何故死に急ぐのです子爵、貴方もアルチュールの言う自由に憧れたからこその選択」


「ワタシの選択はしかし間違っていた」


「間違っていて同時に正しかったのです、貴方はこれからの人生を贖罪に捧げなさい。アーリャ・ミオナ嬢に関してはアルチュールから何らかのフォローがある筈ですから心配ありません」


 アルチュールは子爵を見て頷いた。


「もう行きます、アルチュール、ダオレ、あなた方が居なければワタシは同じ過ちを繰り返すところでした。生きて、生きて人のために尽くし社会を変えましょう!」


「してどこへ行くマキシムス」


「もう荘園へは戻れない、ワタシは死んだ人間だから、これから都でも目指します」


「さらばだマキシムス・レオン」


「さようなら元子爵」


二人は元子爵が見えなくなるまで見送っていたが。やがて馬に乗ると荘園へ帰ることとなった。



「で、ダオレが活躍してオレは何一ついいところなしか」


 明らかにゴーシェは拗ねていた。


「君を牢に入れていたのは私の責任だ、ともかく無罪放免になったことだし牢から出そう」


 伯爵の意外な申し出に3人は面食らった。


「君とダオレ、オルランダ君の3人に話があるのだ」

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