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薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
1.賢者ボージェスの庵
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砂猿との戦い(1)

 オルランダがかつて見世物小屋で見たことのあった野生動物もこれまた珍奇なものであったが、初めて目にする砂猿(ク=シュマ)は猿というより熊のようだった。


 体長3プロム(約2.5メートル)体重は15ベルス(300キログラム)はあるかという巨体で、野生動物独特の顔面崩壊――複眼、鼻と口の畸形、耳の乖離などを呈していた。

 おまけに見世物のそれは危険の無いよう、牙を抜いたり、手足の指を切断して展示しているのだが、砂猿には鋭く飛び出した牙と、煤けた血の付いた長い爪が存在していた。

 あの鈍いといっても差し支えない学問の徒、ゴーシェに勝ち目があるのだろうか?

 どちらかというとあの行倒れの青年に期待するしかない。


 砂猿がダオレに向けて爪の一撃を放ったが、先ほどまで倒れていたのが嘘のように――いや嘘だったのかダオレは紙一重で避けると、己が鉈と呼んだ刀を振り向きざまに抜き放ち砂猿の右腕に切り付けると深手を負わせた。

 ざっくりと肉が割ける。


「フン、やはり行倒れは嘘なのかダオレ? だが今はお前の協力が必要だ行くぞ」


 ゴーシェはダオレに目配せすると砂猿の左腕めがけてグラムで切り付ける。

 だがグラムがゴーシェには重過ぎるのか、紙一重で砂猿にかわされた。

 手傷を負った右腕と爪がゴーシェに向かって振り下ろされた。


「危ない!」


 もう一度ダオレは砂猿の右腕に切り付けると今度は爪の生えた指を例の鉈で切り落とした。


「やべえ、助かったぜ……だがその鉈ってのは……」


「気を付けて! 今度は無傷の左腕が来ます!」


 言うや否や砂猿の左腕が振り下ろされ鋭い爪が砂に突き刺さった。

 ゴーシェはその飛び散る砂をマントで防御するので手一杯だったが、ダオレは凄まじい身体能力で長さ2プロムほどもある砂猿の腕に上ると、砂地に爪が突き刺さっているうちに腕の腱を鉈で切り裂いた。

 そして腕を蹴って再びダオレが砂地に飛び降りると一緒に切れた砂猿の静脈からどろりと生臭い血液が溢れた。


「これで砂猿の腕は無力化しました、格段に危険度は減ったことでしょう」


「テメェやっぱりただものじゃないな? いきなり砂猿と戦える技量といいその鉈と名乗っている剣といい、コイツに対する知識といい……」


「今はどうでもいいことです、砂猿の口元を見てください」

「何ッ!?」


ゴーシェとダオレが砂猿の顔を見上げると口元から黒煙を吐いていた。


「こいつは四肢を傷つけられると防御機能として炎の息を吐くのです」


「なんだと!」


ゴーシェは愕然として叫んだ。


「オレの知識にはない事だ……!」


「実戦を通じて学ばねばわからない事です、書だけではわからない実際の知識が」


「テメェ、どこまでオレを知ってやがる……」


「ぼくはただの行倒れですよ、ほら砂猿の炎の息が来ます!」


「チッ!」


 ダオレが言うとおり砂猿は炎を吐いた。それも広範囲を焼き尽くすかのように。

 かなり離れて見ているオルランダにも熱風が伝わるほどだ。


「これじゃあ近づけない! 砂猿の弱点は頭……ダオレ! それを知って腕を切り落としたか!」


「違います! むしろ逆です、こいつは炎を吐くときに姿勢を低くするのです、その時に頭、特に目を狙えば一撃です」


 刹那、ダオレは砂猿の後ろに走って回り込んだ。


「何をしている、ダオレ!」


「尾を切り落とします少しの間、頭を引き付けておいてください!」


「面倒くさい事押しつけやがって……」


 だがゴーシェは言われた通り砂猿の目の前を走り出した。走った後を火球が追って、砂を黒く焦がしてゆく。


「いいタイミングです!」


 ダオレが言うや否やすでに無くなった手で砂猿は顔面を覆い、不愉快な呻き声を砂漠中に響かせた。

 オルランダが何事かと目を凝らすと、そこには世にも奇怪な尾とは呼べないものが断ち切られて転がっていた。

 そこにはもう一つの癒着した顔らしきものが付いていたが、絶命の恐怖におびえ切った胎児のような表情をしていた。

 あまりの奇怪さにオルランダは目を覆った。


「尾を切ったか!」


「はいこれは酸を吐いてくる極めて危険なものでしたので、そしてこいつはしばらく炎を吐かないでしょう。倒すならば今のうちです」


 ダオレの言った通り黒煙は相変わらず口から漏れ出していたが、呻きつづけている砂猿はしばらく襲ってきそうにはない。


「わかった! オレが遣ろう」


 言うや否やゴーシェは膝を折っている砂猿に近づきグラムを構えた。

 そして膝を足掛かりに砂猿に飛び乗ると、複眼を切り裂いた。

 どろどろと体液を切るような手ごたえしかない。


「やったか!?」


 ゴーシェは砂猿から離れると叫んだ。


「いいえ、まだです!」


「どういうことだ? 目が弱点じゃなかったのか!?」


「ぼ、ぼくにもわかりません……ただ野生動物は突然変異種がとても多いので」


「それはオレも知っているが、こいつが変異種だとでも?」


「はい、恐らく……」


「じゃあ、どこを潰せば死ぬってんだよ!」


「もう二人で虱潰しにするしか……」


「望むところだ。ミンチにしてやる!」

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