表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇の復讐  作者: 雀ヶ森 惠
0.opening
1/100

opening side xy

雀ヶ森です、初のハイファンタジーになります。緊張しておりますが楽しんで頂けるといいな、と思っております。宜しくお願いします。

挿絵(By みてみん)


生命(いのち)なきものの王の国、がらくたの都から離れること幾ばくか。



潮干(しおひ)るとき、そこは砂の海であり、


潮満(しおみ)つとき、眼下に水没した太古の街を望む湖である。



霧の中を一艘の小さな(ふね)が音もなく水を割く。

広大な湖を舟は漁場を求めて進んだ。



『さ霧消ゆる湊江(みなとえ)の 舟に白し、朝の霜。

ただ水鳥の声はして いまだ覚めず、岸の家』



やや小柄な船頭は歌う。

うつくしい声だ。



砂漠は夜になると(うみ)になる。



生命なきものの王の国の愚か者たちは砂漠を恐れて近づかなかった。


少なくとも砂漠は無と解されていたから。



だが砂漠は生命の揺り籠でもあった。



夜になると昼間蒸発していた水分が川のように砂漠へと流れ込んでくる。そして、砂漠の底で眠っていた魚たちが泳ぎだし絶好の漁場となった。



青年はいつも通り夕刻を待ち、霧を待ち舟を漕ぎ出した。


舟は海と家の間に、つまりは昼間は砂の上にせり出した桟橋へ置いていた。



だがその日は全てが彼にとって変わっていたし、変わらざるを得ない日の始まりであるとは夕刻になってこそ、知る由もなかった。



霧の湖を進む。

眼下には決して昼間には見ることの出来ぬ都市の遺構があった。


『太古の昔、神々の怒りに触れ砂漠と湖の底に沈められたのよ』


そう養父に説明されてきたし、青年はそれ以上のことは何も知らなかった。


霧の湖を進む。

時々魚が跳ねた。清澄な水。


今日の釣果はいかほどか?


すでに衰弱を始めた養父と己が食べる分だけ取れれば、

青年の漁は終わりだった。



彼がいつもどおり投網を投げると何か大きなものがかかった。


宵闇の中、金色にきらきらひかる。



始めは鱗を持つ(わに)か何かの類かと思ったのだが、それが人間の

しかも恐らくそれが女であろうことが分かると青年はひどく憤った。



水死体(どざえもん)か? 砂漠で、ご苦労なことだ。




青年は生まれて初めて女を見たのだから。


ひどく、下品で派手な格好をしている。


更に網を引くときらきら光るのは女の髪だということが分かった。金髪というのは話には聞いていたが、見たことは無かった。



不幸にも女にはまだ息があった。


青年は見殺しにする気だったが、養父の事を考えると、女を舟に引き上げた。


恐ろしく軽い。


絡まった網を解く。


青年は仕方なく女の背を叩いた。


女は大量の水と砂を吐き出した。




こんな水死体すれすれの死にかけをどうすればいい?



養父の教えが嫌でも頭をよぎった。


青年は紫色になった女の唇に己の唇を当てると息を吹き込んだ。


女の薄い胸が上下する。


何故見殺しにできないのだろう?


もう一度湖に捨てて何食わぬ顔をするという選択肢もあったのに。


程なくして女は意識を取り戻した。



そして起き上がると、闇の中で薄茶色の(ひとみ)が吃驚した様子でこちらを見ていた。

・冬景色:青年が歌っている曲。1913年(大正2年)に刊行された『尋常小学唱歌 第五学年用』が初出。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
評価、感想、ブクマ、レビューすべて励みになります。
どんな些細なことでもよいのでお待ちしております。
ねたばれ報告はこっそりとお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ