色恋沙汰はどうぞご随意に
4月10日。
めんどくさい授業を終え、私は蒼のいる養護学級の教室へと走った。
息切れしてドアに寄りかかった。
「ねぇあんたさぁ」
唐突に後ろから声をかけられ振り返る。
若干舌ったらず。聞き辛いその声に私の耳が耐えられない。早く会話を打ち切ろう。
「なんですか」
「蒼くんのこと狙ってんの?」
「狙ってるも何も私は蒼の……」
その時いきなりドアが開き、私は思いっきり教室側に転んだ。謝ろうとするといきなり襟を引っ張られ引き摺り込まれた。
「えっちょっと……」
ドアがガタンと閉まる。私を引き摺り込んだ少女は苦虫を噛み潰したような表情でドアの向こうを見つめていた。
「あ、相澤さん……その子は……」
蒼の声がする。ねえ蒼!この人誰……?
「あっ。さっきはごめんなさい!思わず引き摺ってしまって……」
謝られた。
「いや……私こそ寄りかかってたし……ごめんなさい」
暫く沈黙してしまった。
「出てこいよ!おい!」
ドアが破けそうだ。
でもこの声はあの女じゃない。朝あの女と一緒にいた……。
「疾川亮太郎」
蒼は深呼吸してからドアをガラガラと開けた。
「あれ?朝の人だよね。もう此処には来ないんじゃなかったの?」
「あ?病人はすっこんでろよ。俺ぁ真利奈迎えに来ただけだし。調子に乗んなクソガキ」
「同い年だよ」
ひ、ヒートアップするなよ……?
「亮太郎は迎えに来なくていいし!」
「お前が変な病気もらわないようにだな……」
「それやめてって朝言ったよね!」
二人が口論になった。それに蒼は一言言った。
「痴話喧嘩は他所でやれ」
怖いです、ほんとに。
びっくりしたようで二人とも逃げるように帰っていった。
この光景、前にも一度……。
「僕たちもそろそろ帰ろっか………って、え?」
気がつけばこのクラスの女の子と男の子がいない。
「相澤さん?祐樹君!」
蒼が声をかけると相澤さんと呼ばれた少女は教壇から顔を出した。
「どうしたの?そんなところで」
「人柄がいきなり変わると怖いからやめて」
二重人格って確か表と裏では情報共有しないんじゃなかったっけ。覚えてないこと責められると……ねえ。
「いや……二度と来ないで欲しいなって思って」
蒼は笑った。
「朝の人……帰った……?あ、もういない」
自身の机の下に隠れていた少年が顔を出す。
「うん。もう大丈夫だよ」
しばらく三人で話していた。
あの輪の中に、私も入りたい、なんて。
「僕たちも帰ろっか」
蒼が私の手を引いて歩き出す。
「また明日!」
彼に残された時間、残り101日。
私もこの輪に入りたいです。